"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第1話
「ちょっと美咲さん、それ何個目? の牛肉、全部そのお腹に入っちゃうんじゃないの」
義母が元に品な笑みを浮かべ、皿の縁を箸で突いた。
リビングの空気が、瞬で凍りつく。 皿の央に盛られていたのは、義母が得料理だと自する牛すね肉の甘辛煮。 と子どもが囲む曜の卓で、私が箸を伸ばしたのは、確かに切れ目だった。
私は現歳。 埼玉の印刷会社で事務として働き、歳の娘・音を育てながら、第子を妊娠してヶになる。
予定がづき、お腹の張りと貧血がなってきたため、夫の健太から「産休に入ったら母さんに来てもらおう」と提案された。 最初は本当にありがたかった。 きりで事と育児を回すプレッシャーから解放されると、から堵していたのだ。
だが、同居が始まってわずか週で、私の平穏は音をてて崩れった。
「またべるの?」 「目なのに、体管理もまともにできないのかしら」 「あらあら、お昼をべたばかりなのに、もうリンゴを剥いてるわ」
リビングでしでもをかせば、義母のたい線が背に突き刺さる。 産院の助産師からは、鉄分を補うためにを分けにして摂るよう指導されていた。 母子帳にびっしりとかれたアドバイス通りにしているだけなのに、義母の目には「だらしなくい散らかす怠惰な嫁」
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としか映らないらしい。
いつのにか、キッチンで麦茶を杯むことすら、喉の奥が引きつるようになっていた。
そして、そのの夕。 で分ほどの所にむ義妹の絵里が、夫と歳の息子を連れて遊びに来ていた。
午、私はきな病院で待ちの妊婦健診を受けていた。 採血をされ、エコーでお腹の子のきさを測り、い取りでスーパーに寄って帰宅したときには、胃が痛むほどの空腹だった。
それなのに、皿の肉を切れ皿に移しただけで、この言われようだった。
「見てよ絵里。美咲さんたら、妊娠してからが変わったみたいにべるのよ」 義母はこれ見よがしに周囲を見回し、声で笑った。 「うちの費、このペースじゃ破産しちゃうわよねえ」
絵里が引きつった苦笑いを浮かべ、その夫は気まずそうに線を落とす。 私の顔から、さっと血の毛が引いていく。 恥ずかしさと屈辱で、両の指先が刻みに震えた。
私は握りしめていた箸を、そっと皿の脇に置いた。 何も言い返せなかった。 ここで声を荒らげれば、「これだから最の若い母親はヒステリックで困る」と片付けられるのが目に見えていたからだ。
隣に座っている健太の顔を見た。 健太はビール缶を傾けながら、ヘラヘラと笑っているだけだった。
「母さん、やめてやれよ。
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美咲がいじけるだろ」
……いじける? 私が傷ついていることを、このは「すねている」程度にしか捉えていない。 健太にとって、これは曜の夕餉を彩るちょっとした笑い話にすぎないのだ。
そのだった。
「ママ」
隣から、さな、けれど驚くほど澄んだ声が響いた。 見ろすと、歳になる娘の音が、真ん丸な瞳で私をまっすぐに見つめていた。
「ママ、私のお肉……べちゃったの?」
臓が、ドクンと嫌な音をててねた。
「え……? 音、何のこと?」
音は、自分のキャラクターの碗を両で包み込みながら、ぽつりと言った。
「おばあちゃんが言ってたよ。ママは今、お腹のに弟がいるから、ふたり分のごはんをべなきゃいけないんだって。だから、おいしいものは全部、弟のために譲らなきゃいけないの」
リビングの笑い声が、ぴたりと止まった。
義母の顔から笑みが消え、慌ててを横に振るのが界の端に見えた。 「あ、あら嫌だわ音ちゃん! あれは冗談よ、の冗談! 子どもって何でも真に受けるんだから、もう」
けれど、音は笑わなかった。 誰の顔も見ず、ただじっと、自分の碗の底を見つめていた。
そこには、音が好きな、甘辛く煮込まれた牛すね肉が、たったつだけ残されていた。 音はいつも、番好きなおかずを最のお楽しみにして、事そうにべる癖がある。
お皿に残った最の切れを、箸でさくさく刻みながら、をかけてべるのが音の幸せだった。