"父親になりたくないなんて、一度も言ってない" 第11話
隠していた急所を、正確に突かれたような衝撃だった。 言葉がなかった。 否定したかったのに、唇が震えてかない。
「夫がでしそうにしてるのを見て、奈美が居悪かったのはさ……夫をだとったからだけじゃないよね」 真紀の声は、どこまでも残酷で、どこまでも優しかった。
「夫がしそうにしている限り、奈美は『夫のを奪った加害者』のままだから。夫に笑ってほしかったのは、夫のためじゃなくて、自分が罪悪から逃げたかったからじゃないの?」
喉の奥が、焼けるようにくなった。 カフェの賑やかな喧騒が、くへ引いていく。
そうだ。 真紀の言う通りだった。
私は、夫に「妥協」してほしかったのではなかった。 私の選択を「正解」にしてほしかったのだ。 夫が父親になるを完全に捨てり、「子どもなんていなくてよかった」とからってくれなければ、私の選んだは誰かを傷つけた傷跡のまま残ってしまうから。
私は被害者の顔をしながら、夫のまで自分の都のいいようにき換えようとしていた。 子どもを欲しがる夫を「古い価値観に囚われている」と見し、自分の自由を押しつけていただけだったのだ。
「……私、最だね」 ぽろぽろと、涙がテーブルに落ちた。
「最じゃないよ」 真紀はさくため息をつき、ティッシュを私の元に差しした。
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「誰だって、好きなには自分と同じ景を見てほしいものだよ。でもね、奈美。子どものことだけは、真んで半分こにできないの。産むか、産まないか。どちらかを選べば、どちらかが百パーセントの痛みを引き受けるしかないんだよ」
窓のの脚が、さらにまっていた。 通りをき交う々が、傘を傾けてにっていく。
「奈美が産みたくないのも本物だし、夫が父親になりたいのも本物。どっちも違ってないからこそ、誰も悪者にできないんだよ。……で話しいなよ。今度は、相を変えようとするんじゃなくてさ」
そのの夜、暗くなったリビングで、私はスマートフォンをいた。 震える指で、野にいる夫へメッセージを打ち込んだ。
探るような言葉も、嫌を窺うような絵文字も使わなかった。
『葉、見られた? 寒くないといいけど。気をつけて帰ってきてね。……戻ったら、これからのこと、ちゃんとで話そう』
送信ボタンを押すと、画面のの吹きしがにんでいった。
分、画面がった。
『うん。葉、すごく綺麗だったよ。の夕方には帰る。ちゃんと話そう』
画面を見つめながら、私はく息を吸い込んだ。 もう、逃げることはできない。 私たちは、の結婚活で最もい扉をけなければならなかった。
曜の午。
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横浜の空は、がりの鈍いに覆われていた。
夫は予定通り、夕方に帰ってきた。 の気をそのまま纏ってきたような、し疲れた顔をしていた。 リュックを玄関に置き、脱いだスニーカーを揃える。
「ただいま」 「おかえり」
それ以の言葉は交わさなかった。 夫はシャワーを浴び、部着に着替えてリビングに現れた。 私は台所にち、つのマグカップに温かいコーヒーを淹れた。
テーブルのに、湯気をてるつのカップを並べる。 私たちは向かいって座った。 テレビの源は切ってある。 部のには、蔵庫のいモーター音だけが微かに響いていた。
夫はマグカップを両で包み、じっと黒い液体を見つめていた。 私からをくべきだとった。 これ以、夫に最初の刃を握らせるわけにはいかなかった。
「……野、どうだった?」
夫はゆっくりと顔をげた。 以のような、私をさせるための作り笑いはなかった。 静かで、研ぎ澄まされた、逃げのない目をしていた。
「寒かったよ。曽の古い町並みを、ずっとで歩いてた」 「うん」
「歩きながら、ずっと考えてた。……奈美のこと。自分のこれからのこと」 夫はく息を吐きした。 その呼吸のさに、私の臓がきしむ。
「悠介」 私は震えそうになる声を、喉の奥で必に抑え込んだ。
「聞いてもいい?」 「何でも聞いて」
「……この、婚すること、考えてた?」
リビングの空気が、瞬で凍りついた。 自分で投げかけた言葉なのに、その鋭さに自分の胸が引き裂かれそうになる。