みかん小説
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"父親になりたくないなんて、一度も言ってない" 第3話

え切っていた。

夫が皿を並べ、子を引く。 トーストにバターを塗りながら、のない気の話題をにしようとした夫の言葉を、私は遮った。

「……昨の夜、話してたでしょ」

夫のが、ピタリと止まった。 バターナイフを持った指先が、わずかに張る。

「森田さんと話してるの、聞こえたの」 逃げを塞ぐように、私は夫の目をまっすぐに見つめた。 誤魔化してほしくなかった。 優しい嘘で塗り固められた常を、これ以続けるのは耐えられなかった。

夫はゆっくりと息を吐きし、バターナイフを皿の縁に置いた。 線を伏せ、テーブルの目をじっと見つめている。 沈黙が、くのに落ちた。

「……どこから、聞いてた?」 「最初から。悠介が、父親になりたくないなんて度も言ってないって……そう言ったところまで」

告げた瞬、喉の奥がカラカラに渇いた。 夫は顔をげない。 言い訳も、取り繕う言葉もてこないようだった。 その沈黙自体が、昨夜の言葉が本であったことを残酷なまでに証していた。

「どうして……?」 声がかすれた。

「どうして、あんな嘘をついたの? 先、だけで暮らしていこうって言ったじゃない。子どもは諦めたって、自分から言ってくれたじゃない」

責めるような調になってしまうのを止められなかった。 本当は、責めたいわけではなかった。

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ただ、先のあの夜に私たちが交わした抱擁のすべてが、偽物だったとはいたくなかったのだ。

夫はようやく顔をげた。 その瞳には、昨夜ベランダで見せたのと同じ、い諦めと疲労が滲んでいた。

「嘘をついたつもりはないよ」 夫の声は、驚くほど静かだった。

「俺は今でも、子どもが欲しいよ。自分の子どもを育ててみたかった」 はっきりと、逃げずに、夫は言った。 その言葉の鋭さに、息が止まりそうになる。

「だったら、なんで!」 「奈美を、これ以追い詰めたくなかったからだ」

夫はを乗りすこともなく、淡々と、けれどい言葉をねた。

「子どもが欲しいっていうのは、俺の個な願望だ。でも、産むのは奈美の体で、育てるのだって奈美のをきく変えることになる。俺の願望を、奈美の義務にしたくなかった」

「……っ」

「奈美がどれだけ悩んでたか、俺だって見てたよ。子どもを持つ友の話を聞くたびに、おが居悪そうに顔を曇らせてたのも、実に帰るのを怖がってたのも、全部ってた。このまま話しいを続けても、おを削るだけだとったんだ」

夫の言葉は、どこまでも正しくて、どこまでも私への配慮に満ちていた。 世般から見れば、妻のき方を最限に尊してくれる、理な夫の姿そのものだった。

けれど、私のはしも救われなかった。

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むしろ、逃げのない檻に閉じ込められたような息苦しさをじていた。

「だからって……そんなふうに諦められたら、私はどうすればいいの?」 震える拳を、膝ので握りしめた。

「悠介がして、で犠牲になって、私に気を遣って……そんな状態で、どうやって笑って暮らせばいいのよ」 「犠牲なんてってないよ」 「ってるじゃない! のではずっと、私をむんでしょ? 何か経って、周りがみんな族を作って、きりで歳をとった……『奈美のせいで俺は父親になれなかった』って、そううんでしょ!?」

が昂り、叫ぶような声がた。 自分が酷いつ当たりをしているのは分かっていた。 夫は私を尊してくれたのだ。 責められる筋いなんて、夫にはつもないはずだった。

それなのに、私は夫に「納得」してほしかったのだ。 ただ黙ってを引くのではなく、夫自の志として、「子どもがいなくても、奈美とのが番幸せだ」と、の底からってほしかった。 夫のまで、私の望む形に作り変えたかったのだ。 その傲さに気づいた瞬、背筋が寒くなった。

夫は静かに首を横に振った。

「奈美をんだりはしないよ。自分で決めたことだから」 「……本当に?」 すがるように、夫の顔を覗き込んだ。 「本当に、悔しないって言い切れる?」

夫はすぐに答えなかった。

数秒の、けれど永のようにい沈黙が流れた。 朝の澄んだが、テーブルののめたトーストを無慈に照らししている。

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