"薬を飲むと、母が消える" 第5話
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健さんは玄関にったまま、がってこなかった。
「545分。俺とんとこの男と、3でジャッキを運んだ。に使うやつだ。梁のにもかませて、あとはげるだけだった」
「あいつ、あの隙に腹ばいになって、体ごとふさいで、やらせないんだ」
「度押した。瓦でを切って、血がても、どかなかった」
拓のお母さんが、さく「あなた」と呼んだ。健さんは構わず続けた。
「620分、余震が来た。から板が落ちてきてな。あいつ、を差し込んで、お母さんのをかばったんだ」
自分のをげて、そのときの形を作った。
「指は、あのときだ」
「あんた、裸で、ずっとあっちへっていこうとしてた。止めてもきかなくて、俺が体育館まで背負ってった。そのあとは見てない」
そこまで言って、自分の靴を見た。
「3か、あいつをんできた。今も、んでいいのか、わからん」
「だったら、どうしてグループで言わなかったんですか」
「言ったら聞かれるだろ。ジャッキがあったのに、何で無理にでもげなかったんだ、って」
隅で、拓がずっとを向いていた。
「ジャッキ、から持ってきたの、俺なんだ」
拓は言った。
「2往復した。2回目に転んで、まだ膝に痕ある。あのときげてたら、おばさん、もしかしたらって、ずっと……」
最まで言わなかった。
健さんはそばへき、魚の鱗のついたを拓のに置いた。
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軽く押さえて、何も言わなかった。
それから箱を持ちげ、台所へ入っていった。
私は座ったまま、スマホの3を見ていた。いこと見つめてから、ひと文字ずつ消した。
「由紀おばさん。務まで送って」
おばさんは計を見た。820分だった。
「今から?」
「今から」
それ以、聞かなかった。
が赤信号で止まったとき、おばさんが言った。
「遥。何を聞くか、考えた?」
「まだ」
「じゃあ、ったことを聞いておいで。で待ってる。どんな返事でも、10までにはてきて」
プレハブには、まだかりがついていた。黒田さんは机で気ストーブを修理していた。部品が面に並んでいた。奥で帳簿をつけていた子さんが、ドアの音に顔をした。私を見ると、何も言わなかった。
黒田さんはドライバーを置いた。ちがらなかった。
私も座らなかった。
「あの2、止めたのは黒田さんですか」
「ああ」
「健さんたち、ジャッキを持ってきたんでしょう。どうしてげさせなかったんですか」
「げたら、2階が落ちる」
「どうしてわかるんですか」
「壁をしたのは俺だ。がどれだけ腐ってるか、見てる」
「じゃあ、6を過ぎてからは? 消防も来るところだったのに、まだ止めてた」
黒田さんは答えなかった。ドライバーを取り、気ストーブの背板のねじを締めた。緩めて、また締めた。
子さんが奥からてきて、お茶を私のに置き、またカーテンの向こうへ戻った。
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「95、神戸」
黒田さんは言った。
「親方とった。田で、梁を持ちげたことがある」
ねじはもう締まりきっていた。それでも回していた。
「に、おじいさんがいた。丸1、挟まってた。梁をげたら、『助かった』って、笑ったんだ」
が止まった。
「10分だった」
カーテンの向こうで、子さんが帳簿をめくる音が止んだ。
ストーブの音だけがしていた。目ののお茶から、しずつ湯気が消えた。
「母も、もっとくしてたら……」
私は最まで言えなかった。
「わからない」
修理のストーブが直るかどうかでも話すような、平らな声だった。でも、ドライバーを置くは震えていた。
「倉庫にあった報告は、が潰れた原因しか調べてないですよね。梁をげたらどうなるか、瀬さんに聞いたことはあるんですか」
「ある」
「何て?」
「げられないと」
「本から聞きたいです」
子さんが引きしから名刺を探しし、話をかけてスピーカーにした。6回鳴って、瀬さんがた。子さんは夜分にすみません、と断って、スマホを私のへ滑らせた。
名を名乗り、ジャッキのことを話した。
向こうがし静かになり、をめくる音がした。
「写真の側の梁であれば、ほかの支えを増やさず、か所だけを持ちげると、2階のがさらに定になる能性がいです。黒田さんにも聞かれて、同じようにお答えしました」
「じゃあ、げたら必ず崩れたんですか」
「必ずとは言えません。震のあとの現です。力のかかり方も、余震の状況も、完全には再現できません。言えるのは、危険がきかった、ということです」
「げなかったら?」
「けがをされた方のことは、私には判断できません」
話を切ると、黒田さんはファイルから、もう封された報告をして机に置いた。3ページ目の写真に、の支柱が写っていた。隙のそばに斜めにち、落ちてきたを支えていた。
私は、その隙から引きされたのだ。
「わかるのは、梁のことだけですよね。母のことは、わからない」
「医者には、怖くて聞けなかった」
黒田さんは言った。
「どこの先ですか」
「災害医療チームの、先。女の先だ。沢央病院の救急科」
「私が聞きます」
黒田さんは顔をげ、いこと私を見た。
「送っていく」
結構です、と言おうとした。でも、あのを見ていたら、てきたのは違う言葉だった。
「そのは、着てこないでください」
黒田さんはし驚いて、自分の濃いグレーの作業着を見ろした。
「わかった」
帰るとき、子さんが倉庫から箱を抱えてきて、何も言わせず、由紀おばさんのの部座席に押し込んだ。
みかんの段ボールよりしさい箱で、麻紐が掛けてあった。蓋に貼られた預かり票の付は1115。預け主の欄に「野美」
とあり、「」の最にさな尻尾が伸びていた。
「報告を渡して2に、自分でに積んで持ってきたの。台所側は使えなくなったから、事なものを先に置かせてほしいって。引っ越しが済んだら取りに来るからって」
がりして、ずいぶん経ってから気づいた。
私は、ずっと泣いていた。