"「いなくても回る」と言われた私に、12件の着信" 第19話
あのは、自分の席でパソコンの画面を見つめたまま、度も私の方を向こうとしなかった。 カタカタとぎこちなくキーボードを叩くその背は、以の傲な面はなく、まるで何かに怯えるようにさく縮こまっていた。
分。 定のチャイムが鳴った。
私はタイムカード入れから自分のカードを抜き、レコーダーに差し込んだ。
ガシャン。
属質のたい音が、静かなフロアに響いた。
「お世話になりました。お先に失礼いたします」
フロア全体に向けて礼する。 さんや数の若社員が「お疲れさまでした!」と声を返してくれた。 あののデスクからは、何の返事もなかった。
私は袋を抱え、オフィスの曇りガラスのドアを押しけた。 にた瞬、埼玉の夜のたい空気が、照った頬をよく包み込んだ。
きく、呼吸をした。 肺の底まで、澄んだ空気が入ってくる。
終わったのだ。 あの所で、誰かの無能の代わりにされ、をすすり続けたが、今、完全に終わった。
駅へと続くアスファルトのを歩きながら、私は自分のがしっかりとを踏みしめているのをじていた。
あれから、ヶが過ぎた。
の曜。 の柔らかな差しが、リビングのフローリングのに角いの枠を作っていた。
窓のでは、庭のの枝が静かなに揺れている。
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キッチンからは、夫の拓也が淹れてくれた温かい麦茶のばしい匂いが漂っていた。 の配送便にシフトした拓也は、週末を族と過ごせるようになり、今も朝から芽のためにオムライスを作ってくれていた。
「ママ、これ……どこかなぁ?」
リビングのカーペットの。 歳の芽が、膝を抱えて首を傾げていた。
私たちのには、百ピースのきなジグソーパズルが広がっている。 とりどりのが咲き乱れる、の野原の絵。 芽のには、青い空の絵柄が描かれたさな片が握られていた。
「どれどれ?」 私がパズルを覗き込むと、芽がさな指で空の欠けた部分を指差した。 「ここかな? でも、形がちょっと違うの」
「ふふ、よく見てごらん。端っこが平らになってるでしょ? 平らなピースはね、番側の枠になるところだよ」 「あ! ほんとだ! ここだ!」
嬉しそうにパチンとピースをはめ込む芽の横顔。 その瞳には、かつて児科の待で見せていたようなのは、微も残っていなかった。
しい職――堅のオーガニック品メーカーでの活は、驚くほど穏やかだった。 受発注のオペレーションを統括する私の席は、当たりのいい窓際にある。 コピーの横でもなければ、誰かの顔を窺う所でもない。
業務プロセスはすべて標準化され、誰かが休んでも別のスタッフが即座にカバーできるバックアップ体制がっていた。
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先、芽が軽い邪を引いた、司に連絡を入れると返ってきたのは、 「お子さんを番にてあげてください。仕事のことは全員で分担しますから、切気にしないで」という、当たりで、温かい言葉だった。
かつて私が喉からがるほど欲しかった「普通の職」が、ここにはあった。
の噂で、の会社の惨状は私のにも届いていた。 さんからたまに来る況報告のメッセージ。
私の退職、案の定、あのは膨な発注管理のに完全に瓦解したらしい。 詳細なマニュアルを残したところで、品流通のスピードと現の微妙な力加減は、机の空論しからないには到底扱いきれなかった。
納品遅延が頻発し、スーパーからさらに契約を打ち切られ、会社は売りげの割を気に喪失した。 激した社は、結局、額数万円を支払って部の物流コンサルタントを雇い入れたという。 私の昇を「万」で値切った男が、その何倍ものをに払って尻拭いをさせているのだから、皮肉としか言いようがない。
あのは、親族会議で激しい吊しげに遭い、精神に耐えきれなくなって営業部を脱。 今は勤義務のない名ばかりの総務の席で、誰ともを利かずにを過ごしているらしい。
だが――そんな話を聞いても、私のには波つたなかった。