"「いなくても回る」と言われた私に、12件の着信" 第15話
あのは涙目で首を横に振るばかりで、何の役にもたない。
「くそっ! 今からベルクの本部に謝罪にかねばならん……! だが、何がどう狂っているのか、誰も説できないじゃないか!」
社の線が、泳ぐようにフロアを彷徨った。 社員たちは皆、目を伏せ、関わりいになるのを恐れて息を潜めている。
そして――社の濁った目が、フロアの片隅、複の横に座る私を捉えた。
ドスドスと、い音がづいてくる。 私のデスクのにち止まった社の顔には、先週の尊さなど微も残っていなかった。 そこにあったのは、溺れる者が藁をも掴もうとするような、醜い媚び笑いだった。
「さ、佐藤さん……」
震える声で、私の名を呼んだ。
「君、ちょっと社に来てくれないか。……事な話があるんだ」
数分。 私は社の応接ソファに座っていた。 目ののローテーブルには、社自らが淹れたという、湯気のつ級な本茶がされている。
対面に座る社は、両を揉みわせながら、脂汗の浮かぶ顔を擦り寄せてきた。
「佐藤さん、先週はし言葉が過ぎた。すまなかったね。私も会社の経営を背負って気がっていたんだ」
々しい。 反吐がそうだった。
「単刀直入に言おう。君のこれまでのの働き、私はちゃんと評価しているんだよ」 社は引きしから、あらかじめ用されていた枚の類を取りした。
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テーブルのに滑り込ませてくる。
『事異通(案)』
そこには、太い文字でこう記されていた。
【営業部 営業事務課への昇】 【基本改定:現与に額万円をプラス】
「どうだね」 社は得げに笑みを浮かべた。
「君をれて『課』に任命する。基本も万円アップだ。事務員としては破格の待遇だろう? 奈緒さんもまだ若い。これからは君が課として、奈緒さんのにって現を指導してやってほしいんだ」
基本、万円。 役職名、課。
この期に及んで、この男はまだをチラつかせれば私が尻尾を振ると信じ込んでいるのだ。
「つきましては、だ」 社はを乗りし、声を潜めて本題を切りしてきた。
「今から私と緒に、ベルクの本部へってくれないか。先方のバイヤーは激している。だが、君は先方の物流担当者とも昔から顔見りだろう? 『システムの初期エラーによるな具であり、今は任の佐藤課のもとで厳格に再発防止をう』と説して、をげてほしいんだ。君がいてくれれば、先方も無にはしないはずだ」
トラブルの消し。 謝罪の矢面につ盾。 自分たちの犯した違法すれすれの失態を、私の脈と信用を使って揉み消すための贄。 その対価が、たった万円の昇だった。
私はお茶にはもをつけず、静かにをいた。
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「お尋ねいたします、社。私が課に就任した、副主任に対する業務命令権や、システムの運用見直しに関する決定権は、私に任されるのでしょうか?」
「あ、いや……それはだな」 社は言葉を濁し、線を泳がせた。
「奈緒さんも経営陣の内だからね。あまり厳しく締め付けるようなことは避けてほしい。それに、システムの再入れ替えなんて莫な費用がかかる。そこは君がうまく作業でカバーして、チェックで回してくれればいいんだよ。を増やす余裕は今のうちにはないからね」
やっぱり。 何つ、変わっていなかった。
決定権も与えられず、員も増やされず、システムの欠陥はすべて私の「作業の残業」で埋めわせろと言うのだ。 副主任のプライドを守りながら、裏でをすすり続けろと。
「……社」 私はさく息を吐いた。
「もうつ、お聞きします。今、娘がをした際、私は休暇を気兼ねなく取得できる体制を作っていただけるのでしょうか。私がいなくなっても業務が止まらないよう、バックアップの員を配置していただけますか?」
社の眉が、わずかにピクリといた。 を必に押し殺しながら、諭すような調で言った。
「佐藤さん、君も役職者になるんだ。課としての責任というものがあるだろう。子どものくらいで現を放りされては困るよ。