"「いなくても回る」と言われた私に、12件の着信" 第12話
あのはキーッと切り声をげ、歩詰め寄ってきた。 ツンとしたの匂いに、脂汗の臭さが混ざっている。
「分かってるのよ! あんたも、倉庫の島も、ってババアも! 最初から私をハブにして、失敗するのを待ってたんでしょ!? 私が何を言っても『例が』『規則が』って馬鹿にして……!」
「誰もあなたを排除しようとはしていません」 私は線を逸らさず、まっすぐにあのの目を見返した。
「私たちは、品を扱っているんです。賞期限の誤記つで、会社が潰れる。子どもがにするだからこそ、神経をすり減らしてチェックをしてきたんです。それを『無駄なアナログ』『誰にでもできる仕事』と切り捨てたのは、あなたの方ではありませんか」
私の言葉に、あのは息を詰まらせた。 胸元を激しくさせ、ワナワナと顎を震わせる。
「……だって、そう言うしかないじゃない」
絞りすような、掠れた声だった。 あのの目から、再び粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「私だって……やりたくてやってるわけじゃないわよ……!」
に崩れ落ちそうになる体を、あのはシンクの縁を掴んで必に支えた。
「の会社、アパレルの広報だったけど……関係でボロボロになって、でクビ同然で辞めたの。結婚して、やっと居所ができたとったのに……お義父様が『これからはおも経営陣のだ』『うちの会社をて直してくれ』って……」
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化粧の崩れた顔をで覆い、あのはしゃくりげた。
「営業事務のやり方なんて、最初から何も分からない。伝票の見方も、流通のルールも、何つらないのよ! でも……『分かりません』なんて言えるわけないじゃない! 社の息子の嫁が、事務員にペコペコげて教えを乞うなんて……そんな恥ずかしいこと、できるわけないでしょ!?」
あきれ果てて、言葉がなかった。
プライド。 たったそれだけのこと。 自分が無であることをられたくない。 馬鹿にされたくない。 そのちっぽけな虚栄を守るためだけに、あのは現のルールをで踏みにじり、島さんたちを鳴りつけ、私のを嘲笑ったのだ。
「……副主任」 私はややかに、しかしはっきりと告げた。
「分からないなら、学べばよかったんです」
あのがハッと顔をげた。
「現に入って、パートさんたちにをげて、タレのパウチがどうやってトラックに積まれるのか、その目で見ればよかった。恥をかくことを恐れて、ったかぶりでシステムをいじくり回し、ミスがたらに押し付ける。それはプライドではありません。ただの甘えです」
「な……!」
「私の娘がをした、あなたは何とおっしゃいましたか? 『この部署、あなたがいなくても普通に回る』――そう言いましたよね。ご自分で回してみてください。
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それが、あなたがに入れた『副主任』という役職のみです」
私は歩踏みし、あのの横をすり抜けようとした。
その瞬――。 私のスーツの袖が、グッとい力で掴まれた。
「待って……!」
振り返ると、あのがすがるような目で私を見げていた。 さっきまでの傲さは微もなく、そこにあるのは恐怖に怯えた子どもの顔だった。
「お願い、佐藤さん……助けてよ」
「……はい?」
「来週、ベルクのチーフバイヤーとお義父様が会するの。そこで、しい発注管理の成果を報告しなきゃいけないのよ……! 今のままじゃ、ボロがる。全部バレちゃう……!」
あのは私の腕にすがりつき、なりふり構わず懇願してきた。
「佐藤さんが裏で全部やってよ! 伝票も、システムの修正も、全部今まで通り佐藤さんがやって! 表向きの報告だけ、私がやったことにしてくれればいいから! お義父様には、佐藤さんのボーナスををつけるように私から頼んであげるから……ねえ!?」
背筋が、スーッと氷のようにたくなった。
反省など、何つしていなかった。 このはただ、自分が叱責されるのが怖いだけだ。 そして、そのをしのぐために、またしても私を「都のいい代わり」として買い叩こうとしている。
私は、自分の袖を掴むあのの指を、本ずつたく引き剥がした。
「お断りします」
「どうしてよ!? おならお義父様に言えば――」
「私は、あなたのゴーストライターではありません」