"「いなくても回る」と言われた私に、12件の着信" 第11話
運送の仕事が変なのは分かってる」
「いや、俺の甘えだ」 拓也は顔をげ、まっすぐに私の目を見た。
「会社、辞めろよ。あんなクソみたいなところ、にでも辞めていい」
「でも、のローンもあるし、芽のこれからの教育費も……」
「俺が便を増やす。の定期便にシフトして、夜の距を減らせば、芽の送り迎えも半分は俺ができるようになる。取りはし落ちるかもしれないけど、族が壊れるより何百倍もマシだ」
拓也のが、テーブルのの私のになった。 荒れてタコのできた、温かいだった。
「戦うなら、俺も緒に戦う。だから、もうで抱え込むな」
その温もりに、固く凍りついていた私のの芯が、ゆっくりと解けていくのが分かった。 私はもう、ではない。 守るべき常のために、私は私の志で、次の歩を踏みす。
翌週の曜。
転職エージェントから、本の連絡が入っていた。 埼玉に拠点を置く、堅のオーガニック品メーカー。 品質管理と受発注のオペレーションを統括できる、経験豊富な営業事務マネージャー候補を探しているという。 類選考は即で通過し、来週、最終面接が組まれることになった。
の空気は、しずつのたさを帯び始めていた。
社内の空気は、を追うごとに悪化していた。 先週、社が引に荷させたセンター向けのタレ。
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案の定、先方の受け入れ検査で「賞期限のき訂正」が問題され、役所の契約課から厳注の文が届いたのだ。
社からは連、社の鳴り声がフロアに漏れ聞こえていた。
午。 類のコピーを取るため、私は席をった。 フロアの喧騒からしれた、湯のを通りかかったのことだ。
湯のドアが、わずかにいていた。 その隙から、く押し殺したような、しゃくりげる声が聞こえてきた。
「……うっ……ぐすっ……」
が止まった。 そっと隙から覗き込む。
シンクに両をつき、背をさく丸めて震わせている女性がいた。 級なブラウスの肩が、激しくしている。
あのだった。
いつも完璧にセットされていた巻き髪は乱れ、には鏡とポーチが転がっていた。 「どうしてよ……何で私の言う通りにかないのよ……」 途切れ途切れの、掠れた呟き。
その、私が履いていたナースサンダルが、のワックスでキュッとさな音をてた。
泣き声が、ピタリと止まった。
湯のの空気が、凍りつく。 あのが、ハッとしたように振り返った。 マスカラが涙で溶け、目の周りが黒く汚れている。
私と、あのの目がした。
瞬、その瞳に浮かんだのは、惨めさと屈辱。 だが次の瞬、あのの表は激しい憎悪へと歪んだ。
勢いよくペーパータオルをひったくり、乱暴に目元を拭うと、あのは湯のドアをバァンと押しけててきた。
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そして――。 私のにちふさがり、逃げを塞ぐように両を広げた。
「……見たわね」
く、喉の奥から絞りすような声だった。 充血した目が、を剥くように私を睨みつけている。
「見たでしょ、今の。私のこと、ので笑ってるんでしょ!?」
私は類を抱えたまま、ややかにあのを見返した。 言い返す言葉すら、用する気にはならなかった。
だが、あのは逃がさないとばかりに、さらに歩、私のいへと踏み込んできた。 その指先が、りでカタカタと震えていた。
「……見たわね」
く、押し殺した声だった。 目ので両を広げ、私の退を塞ぐあのの指先が、カタカタと震えている。
黒くにじんだマスカラ。 充血した目。 いつもならを馬鹿にしたように吊りがっている唇が、今は惨めに引きつっていた。
「見たでしょ、今の。泣いてるところ。……ので笑いしてるんでしょ!? 『ざまあみろ、無能な縁故採用が』って!」
湯の蛍灯が、チチッとな音をてて滅する。 シンクの蛇から、ポタ、ポタと滴が落ちる音だけが、やけにきく響いていた。
私は抱えていたファイルに両を添えたまま、静かに息を吸い込んだ。
「笑ってなどいません。ただ、仕事に戻っていただければといます。フロアで話が鳴りっぱなしですから」
「嘘ばっかり!」