"「いなくても回る」と言われた私に、12件の着信" 第2話
「副主任、申し訳ありません。娘が急発しまして、退させていただきます。また、曜も病院へ連れてくため、休暇をいただきたくじます」
デスク越しに差しした申請と引き継ぎメモ。 パソコンの画面を見つめたまま、爪をカチカチと鳴らしていたあのは、線だけをゆっくりと私に向けた。
類の端を差し指で弾く。 そして、フロア全体に聞こえるようない声で、ふっと嘲笑を漏らした。
「はぁ……子持ちのって、本当に気楽でいいわよねぇ」
オフィスののキータッチの音が、ピタリと止まった。
数メートルれた席にいるベテランのさんが、息を呑んでこちらを見るのが気配でわかる。 誰もを挟めない。 社の息子嫁に見できるなど、このフロアにはもいないからだ。
「……何か備がございましたでしょうか」 声を震わせないよう、奥歯を噛みしめて尋ねた。
あのは子の背もたれにく寄りかかり、わざとらしくため息をついた。
「備っていうかさ。曜のこのクソ忙しいに退して、曜も休む? 子どものって、本当なの? でどうにかげて、曜は普通に来るのが社会の常識じゃない?」
「まだ歳です。インフルエンザの能性もありますし、曜の朝は医師の診察を受けさせなければ登できません。
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曜分の配はすべて終えてありますし、この引き継ぎに――」
「あのさ、佐藤さん」 私の言葉を遮るように、あのは引き継ぎメモをで押し返した。 類がデスクの端から滑り落ち、にパラパラと散らばる。
「言い訳ばっかり並べないでくれる? そんなにペラペラ喋らなくてもいいから」 あのはえ切った目で私をまっすぐに見据え、唇の端を吊りげた。
「自分がいなきゃ仕事が回らないとでもってるわけ? 勘違いしないでよね。この部署、あなたがいなくても普通に回るから」
喉の奥が、砂をみ込んだように乾いた。 に散らばった枚の用。 私のが、で踏みつけられたような気がした。
拾いげる指先が、りで微かに震える。 ここで泣いたら終わりだ。鳴り散らしたら、芽の元へくのが遅れるだけだ。
「……承いたしました。サーバーの共フォルダにも同じデータを格納し、メールをお送りしております。曜の業務、よろしくお願いいたします」
くをげ、のをかき集めた。 ろから「はいはい、お事にー」というの籠もらない声がんできたが、私は度も振り返らずにタイムカードを切った。
曜の朝。 埼玉のたいが、病院の駐輪を吹き抜けていた。
芽のは度を超えていた。 荒い息を吐きながら、私のダウンジャケットの胸元をさなで握りしめている。
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「ママ、あたまいたい……」 「丈夫だよ、芽。もうすぐ先に診てもらえるからね」
児科の待は、週けの混雑でごった返していた。 消毒液の臭いと、子どもたちの泣き声。 抱きかかえた芽の体は、カイロのようにを帯びている。 私は自分のコートで娘を包み込み、いプラスチックの子に腰をろしていた。
午分。 コートのポケットで、スマートフォンがく震えた。
液晶画面を見る。 『島(倉庫)』
(島さんから……?) 倉庫からの直通番号。胸が嫌な音をてて波打った。 だが、ここは病院の待だ。通話はできない。 すぐに折り返そうか迷った瞬、話が切れた。
続いて分。 今度は営業部の代表話から。
さらに分。 『奈緒副主任』の表示。
て続けに着信が入る。 画面が消えては点灯し、無質なバイブレーションが太ももを執拗に叩く。
「佐藤芽ちゃん、診察へどうぞ」 護師さんの声が響いた。
「はい!」 私はスマホをマナーモードのままポケットの奥へ押し込み、ぐったりとした芽を抱きげてちがった。
診察で医師に症状を告げ、インフルエンザとアデノウイルスの抗原検査を受ける。 細い綿棒をの奥に入れられ、芽が々しく泣き声をげた。 背をさすり、処方箋の説を聞き、会計を待つ。 母親として娘の苦痛に向きっているそのも、ポケットのの械は狂ったように震え続けていた。