みかん小説
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"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第19話

事が終盤に差し掛かった頃。

皿の央に、こんがりと照りのついた、番きな牛肉が、たったつだけ残された。

最の切れ。

音のが、ピクリと止まった。 箸を握ったまま、皿の牛肉をじっと見つめている。

リビングの空気が、ふっと静まった。 健太も、絵里も、そして義母も、息を呑んでその景を見守っていた。

数ヶ、この最の切れを巡って、庭が音をてて崩壊しかけたのだ。 その記憶が、全員の脳裏をよぎる。

音は迷うように線を泳がせ、ハイローチェアで眠りかけている弟の顔を見た。 それから、恐る恐る、私と義母の顔を交互に見げた。

「……これ」 音のさな声が、静かなダイニングに響く。

「……音、べていいの?」

その問いかけに、真っ先にをいたのは、義母だった。

「当たりじゃないの!」 義母はちがり、トングを掴むと、その最の切れを躊躇なく持ちげた。 そして、音の茶碗のに、どさりと豪に乗せた。

「音ちゃんの好物なんだから、音ちゃんがべなさい! 弟はまだおっぱいしかめないんだから、関係ないの! べたかったら、おばあちゃんがだってだって、いくらでも作ってあげるわよ!」

義母の言葉に、絵里がさく吹きし、健太がホッとしたように目元を緩めた。

音は驚いたように目を見き、それから、私を見た。

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「ママ、いいの?」

私は笑って、音のを優しく撫でた。

「いいのよ。音の分のごはんは、誰にも譲らなくていいの」

音の顔に、パアッと太陽のような笑顔が咲いた。

さな両で箸をぎゅっと握り直すと、音はそのきな牛肉を、きなおでパクリと頬張った。 甘辛いタレが、ぷくぷくとした頬っぺたにべっとりと付く。

「おいしい……!」

もぐもぐと咀嚼しながら、音は底幸せそうに目を細めた。 そこにはもう、誰の顔を窺うも、自分を責める怯えもなかった。

私はその無邪気な横顔を見つめながら、麦茶を、ゆっくりと喉に流し込んだ。

かつて、この卓で喉の奥を詰まらせ、爪をのひらにい込ませて耐えていた自分の姿をいす。 あの、私がをね、笑いでやり過ごしていたら、今頃この子は、「誰かに譲る側の」として、自分の尊厳を削りながらきていくことになっていただろう。

母親が守るべきものは、庭の表面な平穏ではない。 理尽な言葉に対して、毅然と「ノー」を突きつける姿。 奪われそうになった子どもの権利を、をかぶってでも奪い返す覚悟。

守り抜いたのは、たかが切れの牛肉ではない。 この子がこれから先のいで、誰の顔を窺うこともなく、自分のでち、自分の欲しいものを堂々とにできる未来そのものだ。

「ママ、見て! ぜんぶべたよ!」

音が、空っぽになった自分のお茶碗を、誇らしげに両で掲げて見せてくれた。 茶碗の底には、タレの跡だけが綺麗に残っている。

「うん、えらかったね。美しかった?」

「うん! ごちそうさまでした!」

音の元気いっぱいの声が、の柔らかなで満たされたリビングに、どこまでもよく響き渡っていった。

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