"偽装結婚と消えた二十四の図面" 第12話
部の引き戸をけると、はもぬけの殻だった。本棚から、『1』から『24』までのファイルがすべて消えていた。 テーブルのに、枚のメモ用が残されていた。
『桜台へってきます。夕飯はいりません』
俺は駅へり、にび乗った。 桜台の駅の改札を抜け、胸が張り裂けそうないで坂を駆けがった。 夕暮れ、ち並ぶ々の窓に、温かなオレンジのかりがつ、またつと灯っていく。 このかりのつひとつを、あのはもの、たったで守り続けてきたのだ。自分のも、美貌も、プライドも、そのすべてを削り取って。
坂の頂付、かりの消えた軒のの窓から、微かなが揺れているのが見えた。番目の、空きになっている物件だった。 玄関のドアは鍵がかかっていなかった。 静まり返ったの畳が枚され、の点検から懐灯の細いが漏れていた。 から、屑と埃にまみれた細い腕が伸び、続いてヘッドライトをつけた冴子がいしてきた。
「……介さん? どうして、ここに……」
冴子の額には黒い煤がつき、作業着の膝は擦り切れて破れていた。 俺は何も言えず、そのに崩れ落ちるように膝をついた。
「……赤さんと、先から、全部聞きました」
冴子の瞳がきく揺れ、やがて困ったように眉をげた。
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「……困ったたちね。過のことは聞かない約束だったのに」
「聞いたんじゃない。俺が、勝に調べたんです」
「……ずるいわ」
冴子の声が、微かに震えていた。
「あの夜は、酷いことを言いました。資格がないなんて……。俺の代わりに罪を背負ってくれたあなたに向かって、俺は……!」
俺は畳に額を擦り付けるようにして、くをげた。涙が止まらなかった。
「謝らないで、介さん」 冴子は静かに首を振った。 「私は、あなたを守ったんじゃない。……本当は、逃げたのよ。父にち向かい、世にすべてを告発する勇気がなくて、あなたの名を消して自分の名をくことしかできなかった。……あなたの引いた真っ直ぐな線を、私はも奪ってしまったのよ」
「俺も逃げました!」 俺は顔をげた。 「クビになって、になって、桜台のことを忘れたふりをしてきてきた。国にすはずだった告発類を、段ボールの底に隠したまま見ないふりをしてきた! あなたに、全部背負わせてしまった! ……だから、今度はで戦わせてください。俺にも、背負わせてください!」
冴子は両で顔を覆った。 指の隙から、堪えきれない嗚咽が漏れした。、誰にも見せることのなかった、血を吐くような涙だった。 俺は膝をめ、その華奢な肩をそっと抱き寄せた。 髪から、微かに檜のりと埃の匂いがした。
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の、現の匂いだった。 このは、この過酷な匂いので、たったで戦い続けてきたのだ。
しばらくして涙を拭った冴子は、鞄からファイルを広げて見せてくれた。 「軒のうち、補が終わったのは軒。残りの軒は、もう私の個の資力ではどうにもならない。だから、株が必だったの。総会で父と井を退任させ、会社を刷して、会社の正規の予算で全棟を完璧に直す。そして、全民に真実を告げて謝罪する……それが、私の計画のすべてよ」
「井は、総会で俺に『偽装結婚だった』と証言させる気です。残りの借を肩代わりする条件で」
冴子が目を見張り、息を呑んだ。
「断りなさい。危険すぎるわ」
「いいえ、引き受けます」 俺は力く微笑んだ。 「敵を油断させて、最もい壇に引きずりすんです。……俺の引く線は、真っ直ぐなんでしょう? ブレたりしませんよ」
帰り、で夜の桜台の坂をゆっくりとりた。 「ここは番目の。お庭のが綺麗なの。……あそこは番目。先、男の子がまれたのよ」 冴子は軒すべての族構成と名を、完璧に記憶していた。俺の引いた線ので暮らす々を、俺よりも遥かにくしていた。
アパートに戻ると、廊の隅にあのさな製踏み台が置かれていた。 俺はそれを拾いげ、冴子の部の本棚のに戻した。
「これがないと、の段のファイルにが届かないでしょう」 冴子は部の入りに佇み、柔らかく目を細めて笑った。