"偽装結婚と消えた二十四の図面" 第10話
すべてを教えてあげるよ』
その夜、俺は赤坂の級料亭の個にいた。 豪奢な料理をに、井は嫌で酒を煽っていた。
「桜台の図面を見たそうだね。……そうだよ、設計者の欄にかれているのは篠原冴子の名だ。万が、壁のの抜きが見して社会問題になったとしても、法な責任を問われ、刑務所に入るのはあの女だ。あの娘は、株をに入れて私と社を追放する気でいる。だから総会で、君から引導を渡してほしいんだよ。『偽装結婚で株を騙し取った』とな。そうすれば株主はあの女を信任しない。会社も株も、すべてあの女のから零れ落ちる。壁のの祥事も、あの女個の単独犯として処理して、会社は無傷で済む」
井はまるでの気予報でも話すかのような軽さで言った。 責任を取るのは、あの女。 その言葉が、俺の脳髄を激しく殴りつけた。もし冴子が保のために正を働いたのなら、なぜわざわざ自分の名を図面に記したのか。リスクを背負い込む理由がどこにもない。
「……し、考えさせてください」
俺はそれだけを告げ、料亭をにした。
翌朝、務の作業にりていくと、赤さんが作業台のに腕を組んで座っていた。そのには、角が擦り切れた冊の古い学ノートが置かれていた。
「介。
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おに見せなきゃならねえもんがある。本当は、墓まで持っていく約束だったんだがな」
赤さんは分い指でノートを俺の方へと押しやった。 表をめくると、鉛でかれた緻密な施記録がびっしりと並んでいた。 付はすべて、曜か曜。そして現の欄には、すべて『桜台』の文字が刻まれていた。 『耐力壁、筋交い設、ホールダウン物補完』 そんな記録が、から直に至るまで、件分記載されていた。
「……桜台のを、誰にもられずに直してくれって頼まれたんだよ」
赤さんは井を見げながら煙の煙を吐きした。
「無料の定期点検って名目でを説得して、留守のや休に壁を剥がしてな。軒ずつ、俺ともうで、耐震補事をやってきたんだ」
「……もうって、誰ですか」
聞くまでもなかった。だが、俺は確かめずにはいられなかった。
「篠原さんだよ。あの社令嬢が、休みのたびに汚ねえ作業着着て、にいつくばって埃まみれになって寸法を測るんだ。てえ材や物も、音つ吐かずに自分で運んでな。なんて傷だらけだったぞ」
冴子ののひらにあった、あの固い豆。指先の無数の傷。 すべて、このためだったのか。
「事の資材代も、俺への賃も、全部あのが自分の料と貯から払った。
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乗ってたを売り払い、駅のマンションも解約して、あの築のボロアパートに引っ越したんだよ。それでも、個のポケットマネーじゃで軒直すのが限界だった」
あの何もない、段ボールだらけの部の景が脳裏に蘇った。あれは引っ越しの途などではなかった。桜台のを守るために、持てる財産のすべてを換し尽くしたの残骸だったのだ。
「もうつ、教えておく。……に親父さんがんだ、葬式の受付の片隅に、ずっとをげてってた女がいたのを覚えてるか?」
俺は息を呑んだ。
「あのが来てたんだよ。親父さんの棺桶にを入れた、俺のところに来て々とをげた。『介君を、どうかとして育ててください。彼から建築を奪わないでください』ってな。おを雇ったのは俺自の志だが、背を押したのはあのの涙だったんだ」
冴子が親父の遺ので、いこと祈っていた姿。 『とても、いいお顔のさんね』と言った、あの静かな横顔。 あのは、親父の顔をっていたのだ。俺がらないところで、俺のの糸を必に繰り寄せてくれていたのだ。
「……どうして、川さんのに俺を連れてったんですか」
「川さんのはな、務に直接話がかかってきたんだよ。篠原さんのらない仕事だった。
だから、わざとおを連れてったんだ。……もうこれ以、あの嬢ちゃんに全部背負わせておくわけにはいかねえだろ。