"12年消えていた元夫が、娘の式で「父親」になる" 第18話
ただの、見栄と嘘にい尽くされた、惨めな老の抜け殻だった。
「あなたの嘘のせいで、私はたくさんのものを失いました。けれど、今この瞬、あの子が自分のであなたの嘘を切り裂いた。それだけで、私のの労働は、全て報われました」
私はちがり、コートのボタンを留めた。
「もう度と、私たちのに関わらないでください」
私たちは席をった。 度も振り返らなかった。 背で、元夫が崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏し、を抱える気配がしたが、誰もを止めることはなかった。
夜のたい空気が、照った頬を撫でていく。 駅へ向かうすがら、奈緒が私の隣に並び、そっと私のを握ってきた。 くて、あかぎれだらけの私のを、娘の柔らかいが包み込む。 その温もりは、の、をしたあの子のさなを握りしめたの触と、寸分違わず同じだった。
半の、。
初の柔らかな差しが、宅のを青々と照らしていた。 私はクリーニングの定休に、私鉄を乗り継いで、都からしれたしいマンションを訪れていた。
「お母さん、いらっしゃい」
エプロン姿の奈緒が、満面の笑みでドアをけてくれた。 部のからは、汁のいい匂いが漂っている。
リビングに入ると、窓からるいが差し込んでいた。
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拓也さんは仕事で夕方までだったが、部の隅々まで入れがき届き、の穏やかな活の匂いが満ちていた。
あれから、元夫からの接触は完全に途絶えた。 警察からの厳警告と、裁判所からの差し押さえ通に恐れをなしたのか、あるいは別の蔓を探して姿を消したのか。 どちらにせよ、私たちの活からあの男のは完全に消滅していた。
拓也さんの母・千恵さんとも、今ではに度、お茶を共にする仲になっていた。 千恵さんは顔をわせるたびに、「文子さんのあのの毅然としたお姿、本当に尊敬しておりますのよ」と、朗らかに笑ってくれる。 嘘を排除したに残った関係は、以よりもずっと通しがよく、固なものになっていた。
「お母さん、これ、べてみて。お母さんの付け、真似してみたんだけど」
奈緒が運んできた筑煮をに運ぶ。 し甘めの、実の母から受け継いだ。
「……美しいわよ。にできてる」
「本当? よかった」
奈緒はほっとしたように笑い、私の向かいの席に腰をろした。 その顔には、半のような怯えや、虚飾に縋りつく痛々しさは微もなかった。 にのついた、のの女性の顔だった。
ふと、テレビボードのに置かれた、さな写真てが目に留まった。
製の、素朴で温かみのあるフレーム。
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そこに飾られていたのは、披宴の集写真ではなかった。 もちろん、あの男が写り込んだ写真でもない。
それは、披宴が始まる直、婦の控の片隅で撮られた枚のスナップ写真だった。
純のウェディングドレスを着た奈緒の元に、黒留袖姿の私がしゃがみ込んでいる。 緊張で張る娘を見げながら、私が真剣な横顔で、ドレスの裾の乱れを丁寧に直している瞬。 スポットライトも当たらない、部の暗い片隅。 私のは荒れていて、背筋には疲労が滲んでいたけれど、その瞳には、娘への祈るようなだけが宿っていた。
「……これ」
私が呟くと、奈緒が写真てに線を移し、おしそうに目を細めた。
「式のカメラマンさんがね、おまけで撮ってくれてたデータのに入ってたの。拓也さんとで見て……『この写真を飾ろう』って決めたんだ」
「でも、もっと綺麗に写ってるの写真があるでしょうに」
「ううん。これがいいの」
奈緒は私の荒れたを、両で優しく包み込んだ。
「あの、スポットライトので偉そうにスピーチしていたお父さんは、私の父親じゃなかった。……私のので、見えない所で、誰にも自できない所で、ずっと私の裾を直して、を払って、に押ししてくれたのは、お母さんだけだったから」
奈緒の瞳に、澄んだ涙が粒だけ浮かんだ。 けれど、その唇は穏やかに微笑んでいた。
「ここが、お母さんの席だよ。誰にも奪えない、私ののの、本当の特等席」
胸の奥が、じんわりと温かいで満たされていくのをじた。
。 くて、孤独で、報われないとっていた々。 誰のために耐えているのか分からなくなり、夜の作業で、たい蒸気ので泣いた夜。
そのすべてのは、決して無駄ではなかったのだ。 嘘で飾られた拍など、最初から必なかった。 世体という名の、のための台装置など、いらなかったのだ。
欠けていてもいい。 傷だらけでもいい。 にまみれながら、自分ので踏みしめてきた真実の々だけが、を最に救うのだ。
「……ありがとう、奈緒」
私は娘のを、く握り返した。
窓のには、抜けるようなの青空が広がっていた。 初のがレースのカーテンを静かに揺らし、私のしいの始まりを告げるように、よく通り抜けていった。