みかん小説
本棚

"歩けるようになった夫が、最初に捨てたのは私だった" 第19話

けれど、向きのきな窓からは、朝の柔らかなが部の隅々までり注いでいた。

ベランダのすりには、昨ホームセンターで買ってきたばかりの、青い陽のさな鉢植えを置いた。 の季節になれば、きっと綺麗なを咲かせるだろう。

部のに戻り、気ケトルでお湯を沸かす。 棚から取りしたのは、先週、益子焼の陶器で自分で選んだ、し歪な形のマグカップ。 ドリップバッグのコーヒーをセットし、ゆっくりとお湯を注ぐ。

部いっぱいに広がる、ばしい苦のり。

誰かの事制限を気にすることもない。 誰かの血圧の数値を記録することもない。 ただ、自分が起きたいに起き、自分がみたい温度でコーヒーを淹れる。

それだけのことが、胸の奥をじんわりと温めていく。

先、区役所から通が届いた。 夫――元夫となった健介が、あの緑のを提したのだと。 弁護士を通じて送られてきた通のには、たっただけ、几帳面な跡でかれていた。

『美のしいが、幸せであることを祈っています』

私はそのを、度だけ静かに読み返し、シュレッダーにかけた。 憎しみも、未練も、屑と共に消えった。 あのはあのので、転びながら、誰かのを借りながら、きていくだろう。 そして私も、私ので歩いていく。

広告

それで、よかったのだ。

テーブルので、スマートフォンがく震えた。

画面を見ると、娘の遥からのLINEだった。

『お母さん、きてるー? しい部、片付いた? 今度の曜、もしあったら座でお茶しない? 就職して初めてのボーナスたから、お母さんにご馳するよ。 ……だけで、ね』

画面の文字を見つめているうちに、界がじんわりと滲んだ。

あの、リビングで「お母さんの犠牲は周りの空気を吸い尽くす」と泣き叫んだ娘。 私の病な献に押し潰され、から逃げさざるを得なかった娘が。 私を「誰かのお世話係」としてではなく、「林美」というの母親として、もう度見つめ直そうとしてくれている。

私は、親指で画面をタップした。

『ありがとう、遥。 お母さん、すごく楽しみにしてる。 今度は絶対に、遅れないでくね』

送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。 桜のびらがに乗って、け放たれた窓から、ハラリと枚、テーブルのにい落ちてきた。

私はマグカップを両で包み込み、窓のの青空を見げた。

かつて、私は誰かをたせるためだけにきていた。 そのがちがった瞬、私の世界はすべて崩壊したのだと絶望したもあった。

けれど、違った。

あのの暗を通り抜けたからこそ、私はることができたのだ。

誰かの杖になるのではなく。 誰かの跡を追うのでもなく。

私自ので、このを踏みしめてきていくことの、本当の清々しさを。

のが、カーテンを優しく揺らしていた。 計の針が、私のしいを、秒ずつ確かに刻んでいた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: