"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第18話
「……獄だよ」
絞りすような声だった。
「営業第課の連は、本社のやり方なんてこれっぽっちも聞き入れない。支社の先輩も、いざとなれば自分の保ばかりで、俺の肩なんて持ってくれない。毎、数字に追われて……夜に社宅に帰っても、え切った部に気をつけるだけで、飯もない」
夫のが、刻みに震えていた。
「スーパーの総菜も飽きた。コインランドリーに夜にくのも限界だ。部はゴミだらけで……掃除をかける気力すら起きない。阪にいた頃は、おが定期に来てくれて、作り置きもしてくれてたから、何とかなってたんだな……」
私は黙って、運ばれてきたアイスティーのグラスの汗を見つめていた。
何を今さら、言っているのだろう。 事も、事も、健康管理も。 すべて誰かが自分のを削って提供してくれていたサービスだったのだと、失ってからようやく気づいたのだ。 自分がどれだけ恵まれた環境に胡をかき、妻の無償の労働を搾取していたのかを。
「由紀子」
夫がを乗りしてきた。 充血した目が、縋るように私を捉える。
「俺が悪かった。おの仕事をパートだと見したのも、音の受験を邪魔しようとしたのも、全部俺が浅はかだった。謝るよ。本当にすまなかった」
かつてあれほど傲だった男が、公衆の面でをげていた。
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「音も京の学に入ったんだ。もう転の配もない。だから……おだけでも、名古に来てくれないか? 副の仕事は惜しいかもしれないが、向こうのドラッグストアの正社員枠を、俺の脈で探すから。な? もう度、族で……いや、だけでも、やり直そう」
やり直そう。 その言葉を聞いた瞬、私の胸の奥に広がったのは、りでも同でもなかった。 ただ、どこまでも徹な、絶対な拒絶だった。
「正弘さん」
私はバッグのから、クリアファイルを取りした。 には、弁護士と相談して作成した通の類が入っている。
トントン、と角を揃えて、夫ののテーブルに置いた。
「何だ……これ」
「『別居』と、『協議婚』の原案です」
夫の顔から、急速に血の気が引いていった。
「り、婚……? おい、由紀子、俺は謝ったじゃないか! をげてるだろうが!」
「ええ、聞きました」
私の声は、自分でも驚くほど静かで、穏やかだった。
「でもね、正弘さん。あなたが謝っているのは、私を傷つけたことを反省しているからじゃないわ。名古での暮らしが便で、仕事が辛くて、自分のの回りの世話をしてくれる便利ながいなくなったからでしょう?」
夫が言葉に詰まり、をパクパクとさせた。 痛いところを突かれたの、典型な反応。
「もし私が名古にったら、あなたは何と言って私を迎えるの? 『やっぱり俺の稼ぎがないときていけないだろ』って、またいつか同じように見すんじゃないかしら」
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「そ、そんなこと言わない! 誓うよ!」
「誓わなくていいの」
私は首を横に振った。
「問題は、引っ越すかどうかじゃないのよ。正弘さん、あなたは、私を置いて阪へった。その、私はち止まってあなたを待っていたわけじゃないの。で働き、資格を取り、責任を背負って、自分のでつ活を築きげたの」
氷の解けるカランという音が、グラスので鳴った。
「あなたが帰ってきた、私はもう、の従順な妻じゃなくなっていた。それなのに、あなたは自分が戻ってきたら、私がまたと同じ所で、あなたに傅いて待っているとい込んでいた。それが、私たちの終わりの原因よ」
「由紀子……」
「あなたとやり直す気はありません。選択肢はつです」
私は通の類を指先で分けた。
「つは、正式に協議婚すること。音の養育費と、これまでの財産分与を清算して、赤のになる。もうつは、法な夫婦の分のまま、この別居にサインして、婚姻費用を払い続ける。どちらを選ぶかは、あなたにお任せします」
夫は、テーブルのの類を見つめたまま、微だにしなかった。 その瞳から、傲さも、見栄も、りも、すべてが剥ぎ取られていた。 残ったのは、自分が破壊してしまったもののきさをにしてち尽くす、ただの無力な男の姿だけだった。