"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第16話
夜、スマートフォンの画面が暗のでく滅した。
枕元で震える端末をに取る。 画面に表示されていたのは、名古へ発ってから週、度も連絡を寄越さなかった夫からのメッセージだった。
『ワイシャツの襟の黄ばみ、何の洗剤使ってた? クリーニングにすがもったいない。あと、胃薬はどこのメーカーだ。ドラッグストアで送ってくれ』
画面の青いを見つめながら、私は声もさずに息を吐いた。
、阪で単赴任していた、あのは自分のの回りのことなど何つ把握していなかったのだ。 季節の変わり目に私が送っていた段ボール。 着、靴、常備薬、アイロンがけされたワイシャツ、好みのふりかけ。 それらすべてが「勝にそこに湧いてるもの」だと本気でい込んでいた。
事という名の無数の労働を、妻がで肩代わりしていたからこそ、あのはで「仕事だけに集する派な企業戦士」を気取っていられた。
画面をタップし、メッセージを既読にする。 返信は打たなかった。 通をオフにして、画面を伏せる。
暗に沈んだしい部は、驚くほど静かだった。 築の2DK。 賃は万千円。 の戸建てに比べれば狭で、脱所も狭いけれど、当たりだけは抜群に良かった。 フローリングのには、のが残した傷ひとつない。
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ここには、あのの脱ぎ散らかした靴も、酒の匂いも、理尽な号もしない。
私と音だけの、誰にも脅かされない所だった。
の末、私たちはのの引き渡しを終えた。
夫が方に解約した賃貸契約の残務処理は、産と私が直接やり取りをして終わらせた。 敷の精算と、退の確認サイン。 私のしい所をらせる必はなかった。 弁護士を通して作成した『婚姻費用分担』の控えには、類の送達先として弁護士事務所の所が指定されているからだ。
夫からは、毎の振込期ぎりぎりになって、した婚姻費用万千円が振り込まれていた。 額の横には、何のメッセージも添えられていなかった。 会社の料から差し押さえられる恐怖と、世体を守りたいという執だけで、あのはを振り込んでいる。 それで分だった。 そこにの通いいなど、最初から求めていない。
がけ、の旬。 が鉛の寒気に包まれるなか、学入学共通テストのがやってきた。
朝。 え切ったキッチンにち、音のために温かい豚汁を作った。 保温ジャーにご飯を詰め、卵焼きを焼く。 受験票、記用具、カイロ、計。 机のに並べられた持ち物を、音は何度も指差し確認していた。
「お母さん」
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コートを着た音が、マフラーに顔を埋めながら私を見た。
「ってくるね」
「うん。丈夫、いつも通りやっておいで」
私は娘の肩にを置き、ぎゅっと力を込めた。 、父親が阪へってから、この子は度も「お父さんにそばにいてほしい」と泣き言を言わなかった。 模試の判定が落ちて悔し涙を流した夜も、をしてで耐えた夜も、この子は全部自分の力で乗り越えてきた。
「私ね、お母さんの背を見てたから、頑張れたんだよ」
音が、マフラーの奥からさく微笑んだ。
「お母さんが夜遅くまで仕事して、資格取って、副になったの、本当にかっこいいとってた。私も、誰かに頼りきりになるんじゃなくて、自分のでてるになりたい」
胸の奥がくなり、喉の奥がきゅうっと締まった。 涙が零れそうになるのを堪え、私は娘の背をポンと叩いた。
「ってらっしゃい。夜は音の好きなハンバーグにするから」
「うん!」
ドアがき、たいの朝の空気が流れ込む。 い息を吐きながら駅へと向かう娘のろ姿を、私は見えなくなるまで見送った。
父親がいなくても。 などという層ながでも。 子どもは、自分の志で、自分の力でを向いて歩きせるのだ。
旬の次試験を経て、の旬。
桜の蕾がまだい朝、スマートフォンの画面に京学芸学の否照会サイトが表示された。
音の震える指先が、受験番号とパスワードを入力する。