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"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第15話

私は、スマートフォンの画面を夫に向けた。 そこには、産とのメールのやり取りが表示されていた。

「このの所に、頃な2DKの賃貸を見つけました。私の名義で、審査も通っています。連帯保証には、私の勤務先の社がついてくださいました」

「……あ?」

夫のから、抜けな声が漏れた。

「審査が通った……? おが?」

「言ったでしょう。私は副です。定した収入があり、会社からの信用もある。あなたの名義にすがりつかなくても、私と音のくらい、自分で借りられるのよ」

夫の顔から、急速に血の気が引いていった。 赤黒かった肌が、気へと変わっていく。

自分が握っているとっていた殺与奪のロープは、最初から切れていたのだ。 妻を縛り付けるための経済力も、居も、世体という鎖も、すべて妻自ので断ち切られていた。

「音の学の費用も、国の教育ローンを私の名義で申請しました。分は、私の積預で賄えます。あなたのおは、円もあてにしていません」

沈黙が、リビングを支配した。 たいの陽射しが、に落ちた類のいを伸ばしている。

夫は、力なくソファに腰を落とした。 その背は、朝の傲さが嘘のように丸まり、まるで老のように萎縮していた。

「……俺は」

夫のから、掠れた声が漏れた。

「俺は、何のために……で頑張ってきたんだ……」

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「自分のためでしょう」

私はけ容赦なく、最の撃を突き刺した。

「あなたは度だって、私たちのために働いたことなんてない。自分のプライドのため、自分の世のため、自分が気持ちよくなるためだけに、族を都よく利用してきただけよ。その結果が、今です」

夫は何も言い返せなかった。 ただ、膝のに置いた両を、固く握りしめているだけだった。

翌週の曜。 朝のえ切った空気が、がの玄関を満たしていた。

フローリングのには、つのきなスーツケースが並んでいた。 夫の私物だけを詰め込んだ荷物だ。 私が伝うことは切せず、夫が昨夜、で寝から運びしてきたものだった。

「……くぞ」

夫はコートの襟をて、靴を履いた。 その顔には、かつての横柄な笑みも、鳴り散らしていた覇気も、欠片も残っていなかった。 ただ、疲弊と、信じられない現実から目を背けようとする頑固な拒絶だけが張り付いていた。

「鍵は、郵便ポストに入れておく。敷の精算の類は、産からそっちに送らせるからな」

「分かりました」

私は玄関のにち、静かに見送った。 階からは、音はりてこなかった。 娘は自の机で、すでに過問を解き始めているはずだった。 父親への別れの言葉など、言も用していなかった。

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夫はドアノブにをかけ、振り返った。 その瞳に、最の掻きのような、醜い期待のが宿る。

「……悔するなよ、由紀子」

掠れた声だった。

「京で女つで娘を育てるのがどれだけ変か、いることになる。泣きついてきても、俺はもう助けないからな。絶対に、許さないからな」

まだ、自分が優位にっているといたいのだ。 捨てられたのではなく、自分から見捨ててやるのだと、そうい込まなければ元から崩れ落ちてしまうのだ。

れだった。 連れ添った男の、これが最の姿なのかとうと、りすら湧いてこなかった。

「お元気で、お仕事頑張ってください」

私はただ、事務な会釈をつ返した。

夫の顔が屈辱に歪んだ。 バタン、と暴力な音をてて玄関のドアが閉まり、いスーツケースのキャスターがアスファルトを擦る音が、ざかっていった。

静寂が戻ってきた。

私は、誰もいなくなった玄関を見つめた。 たい隙が、首をかすめていく。

終わったのだ。 いや、ここから始まるのだ。

私は振り返り、階段を見げた。 階の部から、カリカリとのをるシャーペンの音が、微かに聞こえていた。

「音」

声をかけると、階段のから娘が顔をした。 すっきりとした、何の迷いもない笑顔だった。

「お母さん、お腹すいた。朝ご飯、なに?」

「フレンチトーストにしようか。卵、いっぱい使って」

「やった」

私たちは笑いった。 、凍りついていたがの空気が、確かなを持って溶け始めていた。

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