"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第13話
私は音と緒に、所のファミリーレストランのボックス席にいた。 窓のには、の澄んだ青空が広がっている。
「お母さん、本当に良かったの?」
音がトーストを齧りながら、配そうに尋ねてくる。
「お父さん、今頃品川駅でり狂ってるんじゃない?」
「いいのよ。く気がないのにホームにく方が誠実だもの」
私はホットコーヒーを啜り、元のスマートフォンを伏せた。 を過ぎた瞬から、夫からの着信がひっきりなしに画面を震わせていたが、すべてサイレントマナーで無していた。
午。 モーニングのを終え、私たちが自宅のに戻ってきただった。
宅の狭いに、見慣れない巨なトラックがまっていた。 と黄のツートンカラー。 引っ越し業者のロゴが、体にきく描かれている。
がの玄関先には、作業着を着た若い男性作業員が、所なさげにっていた。 そして、その元には――。
「……何、これ」
音が息を呑んだ。
玄関のポーチを完全に埋め尽くすように、平らに畳まれた茶い段ボールの束が、うずたかく積みげられていた。 箱。いや、それ以ある。 ガムテープのロールと緩衝材の束が、がの入りをバリケードのように塞いでいた。
「おい、由紀子!」
の向こうから、血相を変えてってくる男がいた。
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スーツ姿にコートを羽織り、ネクタイを歪ませた夫だった。 品川駅からタクシーで引き返してきたのだろう。額には脂汗がり、目は血り、狂気を帯びていた。
「おら、どこをほっつき歩いてたんだ! 品川でどれだけ待たされたとってるんだ!」
作業員たちのであることも構わず、夫は鳴り散らした。 向かいのの窓のカーテンが、サッとくのが見えた。 ご所の目が集まり始めている。
「幹線のチケットを無駄にしやがって! だがな、もう逃げはないぞ!」
夫は積みがった段ボールを、革靴の爪先でドカンと蹴りばした。
「段ボールは届いた! 引っ越しの契約も、付はもう振り込んである! 来のにはトラックが荷物を積みに来るんだ! 荷造りをしろ! おたちに選ぶ権利なんかないんだよ!」
作業員が気まずそうに目を泳がせながら、バインダーを差ししてきた。
「あ、あの……ごでしたので、荷ろしだけ先にさせていただきまして……こちらに受領のサインをいただけますでしょうか」
夫が勝ち誇った顔で胸を張る。
「ほら見ろ、サインしろ由紀子。これが現実だ。おがどれだけ喚こうが、もう会社も業者もいてるんだよ!」
臓が、鐘のように激しく打っていた。 全の血が逆流するような覚。 隣で、音が私の腕をきつく掴んで震えている。
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私は音のを優しく握り返し、歩へた。 作業員のにち、バッグから本の極太の赤い油性マーカーを取りした。
「由紀子……? 何をする気だ」
夫の眉がピクリとく。
私はキャップをし、番に積まれていた段ボールの表面に、きく、太い文字で殴りきした。
『受取拒否』
キュッ、キュッ、とペン先が擦れる障りな音が、静かな宅に響き渡った。
「お、おい! 何やってんだ貴様!」
夫がを伸ばしてきたが、私はそのをたく振り払った。 そして、呆然とち尽くす作業員に向き直り、澄んだ、よく通る声で告げた。
「業者さん、ご苦労様です。ですが、この荷物は受け取れません。持ち帰ってください」
「は、はあ!? しかし、こちらのご主様から正式にご依頼を……」
「このの賃貸契約の名義は夫ですが、荷物の搬および転居に関する族のは切成していません。配偶者である私の同のない契約であり、荷物の受け取りを確に拒否します」
「由紀子!!」
夫の号がぶ。 だが、私は作業員の目から線を逸らさなかった。
「このまま敷内に放置されるのであれば、法投棄として警察に通報せざるを得なくなります。お引き取り願えますか」
作業員は顔を見わせ、引きつった表でさく頷いた。 の引っ越し業者が番恐れるのは、庭内トラブルに巻き込まれて警察汰になることだ。
「わ、分かりました……持ち帰ります。お客様、申し訳ありませんが、キャンセルに関する規定は営業所からご連絡差しげますので……」