"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第12話
休憩のさなテーブルで、私はえ切った緑茶をに含んでいた。
向かいには、腕を組んでこちらを見つめている智子がいた。 テーブルのには、私が昨夜の夜にプリントアウトしてきた数枚のA4用が置かれている。 裁判所のホームページからダウンロードした、『養育費・婚姻費用算定表』。
「……なるほどね」
智子さんは鏡のブリッジを指先で押しげ、類に目を落とした。
「ご主は、活費を止めるって脅してきたわけね」
「はい。名古について来ないなら、円も渡さないと」
「典型なモラハラのね。経済な兵糧攻めで、相の首根っこを押さえつけるやり方」
智子さんはややかにを鳴らし、赤いボールペンで算定表の数値を指した。
「でも、法律はそんな勝を許さないわ。別居していても、夫婦である以、収入のい側には活保持義務がある。これが婚姻費用よ。ご主の額面収が仮に百万円、あなたの収が副としての百万円だとすると……ご主が支払うべき婚姻費用は、音ちゃんが歳だから、に体万から万円」
智子さんは、かつて自も沼の調を経て婚した経験を持っていた。 その静で無駄のない解説が、私ののにあったを、みるみるうちに払っていく。
「払わないと言い張ったら?」
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「庭裁判所に婚姻費用分担請求の調を申してるの。調が成するか審判がりれば、相の料を会社から直接差し押さえることができるわ。ご主、会社での体裁を何より気にしてるんでしょう? 裁判所から会社に与差し押さえの通が届いたら、それこそ世どころの話じゃなくなるわよ」
元のボールペンをく握りしめた。 識は、武器だ。 無であることは、あののような傲なに首輪を差しすことと同じなのだ。
「田さん、もうつ聞いていい?」
智子さんが、鏡の奥から真剣な差しを向けてきた。
「あなたはさっきから、『音ちゃんの受験があるから』『音ちゃんのを守るため』って言ってるわよね」
「……はい」
「もしもよ。もし音ちゃんがもう学を卒業していて、をて暮らしをしていたとしたら……あなた、ご主の名古きについてった?」
喉の奥が、カッとくなった。 言葉が、喉元で詰まる。
もし、音がすでにになっていたら? もし、子どもの受験という義名分がなかったら?
私は、夫に従って名古へき、またあのの脱ぎ散らかしたを洗い、好みの付けで料理を作り、あのの顔を窺うだけの毎に戻っただろうか?
「……いいえ」
声が、さく漏れた。 自分でも気づかないうちに、本音が唇を割ってびしていた。
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「かないです。絶対に、きません」
「そうよね」
智子さんは満そうに頷き、を乗りした。
「娘の受験を言い訳にしちゃ駄目よ。あなたが名古にきたくないのは、あなたが、あなたのを放したくないからでしょう? こので副として積みげてきたキャリアを、誇りを、捨てたくないからでしょう?」
胸の奥を、直接で掴まれたような衝撃があった。 界が急速に滲んでいく。
そうだ。 私はずっと、音のに隠れていたのだ。 「娘の受験が事だから」「母親として娘を守らなきゃいけないから」。 そう言っていれば、世からも責められず、良き母親として夫を拒絶できると、のどこかで自分に言い訳をしていた。
違う。 私は、私が嫌なのだ。 あのの顔を窺い、あのの世のために自分のをすり減らす、あの奴隷のような々に逆戻りするのが、ぬほど嫌なのだ。
「私……自分の仕事を、捨てたくありません」
涙が、テーブルのの算定表にポタリと落ちた。
「誰かの妻としてじゃなく、田由紀子として、ここできていきたいです」
「言えたじゃない」
智子さんが、柔らかく、けれど力く微笑んだ。
「それでいいのよ。自分のために戦いなさい、田さん。母親だからって、自分のを全部子どもや夫に捧げる義務なんて、これっぽっちもないんだから」
決戦の曜がやってきた。
夫が指定した、品川駅の幹線ホームに集するはずだった朝。