"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第11話
荷造りを始めろ。おに拒否権はない」
夫はたく笑うと、私の返事も待たずに踵を返した。
テーブルのに落ちた見積には、無質な赤字で『搬予定 』とスタンプが押されていた。
『搬予定 』
クリスマスイブの付が刻印された見積を指先で弾きばし、私は換気扇のでたいを喉に流し込んだ。
胃の腑のあたりが、氷を呑み込んだようにえ切っている。 夫は階の寝で、すでにい鼾をてていた。 あののでは、すべてが終わったことになっているのだ。 逆らう妻を恫し、引っ越し業者を配し、既成事実を積みげれば、最には女が折れる。 これまで、そうやって自分のい通りに庭をかしてきた成功体験が、あのの傲さをここまで肥化させていた。
翌朝、静寂を破ったのは固定話の甲い呼びし音だった。
午半。 音を送りし、エプロンをそうとした瞬だった。 受話器を取るから、誰からの話か嫌でも分かった。 液晶画面に表示された番号は、夫の実の局番。
「……はい、田です」
「由紀子さん! あなた、体どういうつもりなの!?」
受話器の向こうから、を劈くような義母の切り声がんできた。 受話器をから数センチしても、鼓膜がビリビリと痛む。
広告
「正弘から話があったわよ! せっかく名古で課職に抜擢されて、会社からも期待されているれ台だっていうのに、ついてかないですって!? 夫の世のを引っ張る妻がどこにいるのよ!」
呼吸をつ。 指先が微かに震えていたが、声のトーンだけは識してく、平坦に保った。
「お義母さん、おはようございます。朝くから何のお話でしょうか」
「惚けるんじゃないわよ! 正弘がどれだけ阪で辛いいをしてきたか、あなたが番よくっているでしょう! 族のために歯をいしばって働いてきた息子に、よくそんな恩らずな仕打ちができるわね!」
息を吸うもなく、言葉の礫が浴びせられる。 世体、夫への内助の功、嫁の務め。 昭の化のような価値観が、受話器からドロドロと溢れしてくる。
「だいたいね、音の受験だかなんだからないけれど、受かるかどうかも分からない学のために夫のキャリアを犠牲にするなんて本末転倒よ! 女の子なんだから、かそこらの専学をて、いいを見つけて結婚すればいいじゃないの! 夫をで名古にかせるなんて、田の恥よ! ご所や親戚にどう説する気なの!?」
「お義母さん」
私は義母の言葉を、く鋭い刃先のような声で遮った。
「……何よ、言い訳する気!?」
「音は、受かるかどうかも分からない受験をしているのではありません。
広告
自分の将来のために、毎眠を削って努力しています。それを否定される筋いはありません」
受話器の向こうで、義母が息を呑む音がした。 今まで、何を言われても「申し訳ありません」とをげ続けてきた嫁の、予期せぬ反抗。
「それから、私にも仕事があります。今の職で責任のあるを任されています」
「たかがドラッグストアの番じゃないの! そんなパート仕事、正弘の料に比べたら遣い稼ぎみたいなものでしょうが!」
「パートではありません。私は国資格を持って、医薬品を管理する副です。夫の付属物としてきるために、自分のを捨てるつもりはありません」
「ゆ、由紀子さん……あなた、正気なの!? 正弘を捨てる気!? そんな儘が通るとってるの!?」
「失礼します。仕事のですので」
「待ちなさい! まだ話は――」
ツッ、と通話ボタンを押して回線を切った。 受話器をフックに戻すと、静まり返ったリビングに、自分の荒い呼吸の音だけが残った。
の先から、血の気が引いていく。 けれど、悔はなかった。 かつてなら、義母に鳴られただけで臓が縮みがり、何も寝込んでいたはずの自分が、こうして徹に話を切ることができた。
。 あのがだった、私は誰にも頼らず、でを凌いできたのだ。 義母の顔を窺う必など、最初からどこにもなかった。
昼がりのバックヤード。