"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第8話
私には私の料がある。それに、婚姻費用分担の義務は法律で決まってるわ。あなたが勝に座を止めたら、庭裁判所に調を申してて、料から直接差し押さえるだけよ」
夫の眉がピクリとね、息を呑む音がした。 まさか、従順だった妻のから「婚姻費用」や「差し押さえ」という法な単語がびすとはっていなかったのだろう。
「お……誰に吹き込まれた? あののか? それともネットの入れ恵か?」
「自分で勉したのよ」
私はたく言い放った。
「あなたが阪で、私たちの活に度も目を向けずに過ごしていた。私はで税を払い、保険の続きをし、こののすべての契約を管理してきたの。あなたがっているほど、私は無な女じゃないわ」
夫は忌々しそうに顔を歪め、舌打ちをした。 だが、その瞳の奥には、計算が狂ったことによるらかな焦燥が浮かんでいた。
その、リビングのドアが静かにいた。
「……これ、見てよ」
っていたのは、音だった。 には、みのある冊のノートが握られていた。 表には、見覚えのある学の章と、褪せた文字で『活記録』と印字されていた。
「音……何だそれは」
夫がいらだちを隠さずに問い詰める。 音は無言のまま歩み寄り、そのノートを夫ののテーブルにトン、と置いた。
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角が擦り切れ、何度もかれた跡があるノートだった。 学のからまで、毎の来事や庭での様子を記録し、担任の先に提していたノートだ。
「いてみてよ。学ののページ」
音の声には、りも涙もなかった。 ただ、たく透き通った事実だけを突きつけるような響きがあった。
夫は審そうに眉をひそめながら、適当にページをめくった。 途でが止まる。
そこには、まだ幼さの残る丸い文字で、こうかれていた。
『() きょうは朝からが痛くて、をはかったら度分ありました。 お母さんがお仕事を休んで、病院につれていってくれました。 お父さんに話したら、「阪は今すごく忙しい。くらいでいちいち話してくるな、お母さんに任せろ」とおこられました。 お父さんは、くにっちゃったんだなといました』
夫の線が、ので泳いだ。
「これは……たまたま仕事できなトラブルがあっただ。いちいちそんなことを記にくやつがあるか」
「次もめくってよ。学の」
音は淡々と促した。 夫の太い指が、拒絶するように震えながらページをめくる。
『() きょうは学に入ってはじめての体育祭でした。 お父さんは「午からのリレーにはにうように幹線に乗る」
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と言っていました。 お昼休み、お母さんとでお弁当をべました。お母さんはお父さんのぶんのお弁当も作って、そうに持ってきていました。 リレーのが始まっても、お父さんは来ませんでした。 けっきょく、閉会式が終わるまで来ませんでした。 夜になってお父さんから話があって、「急な接待が入ったから仕方ないだろ」と言われました。 お母さんは話のあと、お呂でずっと泣いていました』
リビングの空気が、シンと静まり返った。 換気扇の回るい音だけが、に痛い。
「な……何なんだよ、これは」
夫の声が、擦っていた。 顔から赤みが抜け、汚れたに変わっていく。
「子どもの作文じゃないか。の事もらんで……俺がどれだけ会社で神経をすり減らしていたか、おたちに分かるわけがないだろ!」
「分からないよ」
音は、まっすぐに父親を見つめていた。
「分かるわけないじゃない。だって、お父さんは度も話してくれなかった。連絡してくるのは、活費を減らすと、お母さんに用事があるだけ。私がどんな活を送って、何に悩んで、どうして教師になりたいとったか、度でも聞いたことある?」
「それは……おが話さなかったからだろ!」
「話そうとしたよ!」
音の瞳から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。 けれど、声は決して乱れなかった。
「話するたびに、『今忙しいからにしろ』って切ったのは誰!? の格発表の、『そうか、おめでとう、じゃあな』って秒で話を切ったのは誰!? 、お父さんは私の父親をやめてたんだよ!」