"5年ぶりに帰宅した夫と、もう父親を必要としない家族" 第6話
の智子さんが、招きをしていた。 私より歳で、この域舗を統括するエリアマネージャーも兼任しているだ。 いつもは柔らかい笑みを絶やさない智子さんの眉に、見たこともないほどい縦じわが刻まれていた。
「はい、すぐ伺います」
軍をし、ポロシャツの裾をえて事務所に入る。 狭い部のには、売管理のパソコンの駆音だけがく響いていた。 智子さんはパイプ子を勧め、湯呑みに注いだぬるい緑茶を私のに置いた。
「田さん。……今朝ね、過ぎにおに話があったの」
「話、ですか?」
「男性からよ。名乗られたわ。田正弘様――ご主ね」
臓が、トクンと嫌なね方をした。 喉の奥がきゅっと狭まり、息が止まりそうになる。
「夫が……おに、ですか?」
「ええ。最初は本部の代表番号にかけてきたらしいの。そこからうちの舗に回されてきてね。私がたんだけど」
智子さんは息つき、私の目をまっすぐに見つめた。 その瞳には、困惑と、隠しきれない警戒のが宿っていた。
「『副の田由紀子の夫ですが、妻の退職続きについて確認したい』っておっしゃったわ」
の芯が、真っになった。 の奥で、キーンというい属音が鳴り響く。
「……退職、ですか?」
「来のには夫の転勤で揃って名古へ引っ越すことになっている、と。
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の消化を含めて、いつまでに退職届をせば舗の運営に支障がないか、引き継ぎの期はどれくらい見ておけばいいか……すごく事務な、当然の順を踏むような調で聞かれたの」
指先から、急速に温度が引いていく。 血の気が引いて、自分の唇が刻みに震えているのが分かった。
あのは、そこまでしたのか。 昨夜、あれほど拒絶したのに。 今朝、玄関先であれほど確に拒んだのに。 私のなど最初からしないかのように、私の職に直接を突っ込み、私の居所を側から解体しようとしたのだ。
「田さん、私ね、すごく驚いたの」
智子さんの静かな声が、凍りついた空気を震わせる。
「今の、あなたがどれだけ勉して登録販売者の試験に受かったか、私は隣で見てきたわ。任の副が急に辞めてが混乱していた、文句つ言わずにシフトを埋めて、発注のミスをゼロにしてくれたのも田さんよ。本部はあなたを正社員に登用する方向で話をめていたのよ」
机ので、エプロンの布をく握りしめた。 爪がのひらにい込み、鈍い痛みがる。
「、私……」
声が震えて、うまく言葉にならない。 けなさと、悔しさと、夫への底れないりが胃の底からせりがってくる。
「私、辞めません」
絞りすように、けれどはっきりと告げた。
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「退職届なんていていません。名古へくとも言っていません。夫が、勝に……全部、夫の方な妄です」
事務所のに、沈黙が落ちた。 智子さんはしばらく私の顔を見つめていたが、やがてく、いため息を吐いた。
「……やっぱりね。田さんがそんな無責任な辞め方をするはずがないとって、ご主には『本から直接伺っておりませんので、お答えできません』ってお断りしたの」
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
ちがってをげようとする私の腕を、智子さんの温かいが引き止めた。
「謝らないで。あなたが謝ることじゃないわ」
智子さんはちがり、私の肩をしっかりと抱き寄せた。
「田さん。庭の事にち入るつもりはないけれど、これだけは言わせて。自分ののハンドルを、に握らせちゃ駄目よ。度放したハンドルはね、度と戻ってこないの。あなたがこので積みげてきたものは、誰の持ち物でもない。あなた自のものよ」
目がくなり、界が歪んだ。 涙をこぼさないよう、私は奥歯をく噛みしめ、何度もさく頷いた。
午半。 タイムカードを切り、い取りでドラッグストアの裏をた。 の夜が、照った頬を容赦なくやしていく。
最寄り駅までの商を歩きながら、スマートフォンを握りしめるの力が抜けない。
画面には、夫からの着信履歴が件。 メッセージアプリには、い文面が残されていた。