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"「前のパパをこっそり好きじゃダメなの?」" 第14話

しい庭の邪魔をするつもりは毛ありません。養子縁組の妨げになるなら、親権の主張も切しません。ただ……に度でいい。陽太が元気で笑っている姿を、くから見守ることだけを、裁判所を通じて認めていただけないでしょうか』

美咲の目から、粒の涙がポロポロと通帳のに落ちた。 の繊維が、涙を吸って丸く滲んでいく。

あの男を、絶対悪の化け物にしておく方が、どれほど楽だっただろう。 「無責任な男に捨てられたな私」という被害者の殻に閉じこもっている方が、どれほど全だっただろう。

けれど、現実は黒では割り切れない。 愚かで、くて、取り返しのつかない過ちを犯した父親が、にまみれながら、かけて贖罪のを面していた。

「……あいつ、馬鹿よ」

美咲は、通帳を胸に抱きしめ、しゃくりあげた。

「今さらこんなことしたって……許されるわけないじゃない……馬鹿よ……本当に、馬鹿……」

それは、憎悪の涙ではなかった。 越しの、呪縛が解けた瞬の涙だった。

美咲は調員に向かって、くをげた。

「調……めてください。に回、面会交流のを設けていただく条件で、します」

逃げない。 憎しみで過を消しるのではなく、完全な現実をそのまま受け入れる。 娘が初めて、自分のでの階段を踏みしめた瞬だった。

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その翌週の夕暮れ。 私が兼職している域堂の引き戸が、静かにいた。

営業の、暗い内。 汁のりが残る空に現れたのは、宮本修さんだった。

級なコートを腕にかけ、やつれた顔をしていた。 あの料亭のの傲さは消え失せ、肩を落とし、まるで迷子ののようにち尽くしている。

「修さん」

私が声をかけると、男は々とをげた。

「お母さん。……突然押しかけて、申し訳ありません」

カウンターの端の席に座らせ、温かいほうじ茶をした。 修さんは両で湯呑みを包み込み、そのさにすがるようにじっと線を落とした。

「……昨、居の荷物を理していたんです」

修さんの声は、掠れていた。

「美咲さんたちが残していった、陽太くんの部の勉机。引きしの奥に……これが入っていました」

修さんは、コートの内ポケットから、丁寧に折りたたまれた枚のを取りした。

テーブルのに置かれたのは、青い折りで作られた、恰好な幹線。 掌の窓のあたりに、鉛で、拙いひらがながかれていた。

『しゅういちおじさんへ。 でん、買ってくれてありがとう。 おとうさんって、うまくよべなくてごめんなさい。 ようた』

修さんの喉が、ぐっと詰まった。 男のきなのひらが、刻みに震えている。

「僕は……」

修さんは、両で顔を覆った。

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「僕は、ずっと怯えていたんです」

指の隙から、押し殺した声が漏れす。

「方の実から『の子を育てるなんて物好きだ』と笑われ……職の同僚からも『変だな』とれみの目で見られ……僕は、誰よりも完璧な父親にならなきゃいけないと、焦っていた」

涙が、男の指の隙からこぼれ落ち、テーブルに染みを作った。

「陽太くんに『お父さん』と呼ばせることで、周囲を見返したかった。僕の善を、僕の正しさを、証したかったんです。あの子がどんないで僕の顔を窺っていたのか……度も、見ようとしなかった」

「修さん」

「僕は、父親になりたかったんじゃない。……ただ、父親という派な仮面を被って、自分のプライドを守りたかっただけなんです。最です……僕は、あの子を傷つけただけだった……」

エリートとして歩んできた男の、初めての挫折。 けれど、その悔の涙は、料亭で見せたどんな微笑みよりも、ずっと血の通ったらしいものだった。

「修さん。美咲は、役所にす予定だった養子縁組届を取りげました」

修さんが、濡れた目で顔をげた。

「名字も変えません。あの子は、佐伯陽太のままです」

私は修さんのに、しいお茶を注ぎした。

「でもね。あの子は、修さんが買ってくれたの本を、今でも切に本棚の番に並べていますよ」

修さんの目が、きく見かれた。

「形から入る族なんて、壊れるに決まっています。でも、をかけて、傷を晒しって、お互いのさを許しえる関係になれたなら……その初めて、本当の『族のようなもの』になれるんじゃないですか」

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