"「前のパパをこっそり好きじゃダメなの?」" 第12話
「何で今それをすのよ!関係ないでしょ!あの男はもうなのよ!!」
「関係なくない!!」
私の声が、料亭の静寂をっ端微に打ち砕いた。 美咲が息を呑み、怯えたようにを止める。
「この子はね、今、トイレの便器を抱えて、胃液を吐き戻してきたのよ!あなたたちが押し付けた『お父さん』という言葉のみに耐えかねて、内臓を雑巾のように絞りながら、泣き叫んできたのよ!!」
節子さんの顔から、急速に血の気が引いていく。
「の父親を消しゴムで削り落とさせ、いのオモチャをゴミに捨てさせ、喉元に刃を突きつけて『お父さん』と呼ばせる。……それが、あなた方の言う『温かい庭』ですか?!」
「お母さん、言葉を慎みなさい!」
修さんがテーブルを拳で殴りつけた。
「僕は初婚なんですよ!これだけの条件で、連れ子ごと面倒を見てやろうという僕の善を、何だとっているんだ!その汚いオモチャつ処分できないような甘ったれたガキを、僕がどれだけして受け入れようとしていたか――」
「受け入れる?」
私は笑を浮かべ、修さんを見ろした。
「あなたは度も、この子を受け入れてなどいないわ」
「何だと……?」
「あなたが欲しかったのは、自分の『寛さ』を世に見せびらかすための、都のいい操り形でしょう。いローンを払い、父親の座をで買い取り、自分のい通りに名をき換える。
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逆らうな、過をにするな、謝しろと脅しつける。……それはではない。ただの所欲よ!」
修さんの顔が、りと屈辱で真っ赤に染まった。 両を震わせ、私を殴り倒さんばかりに睨みつけてくる。
「母さん、もういい!こんな礼儀らずの族、こっちから願いげだ!」
節子さんがちがり、ハンドバッグを掴んだ。 その目は、軽蔑と嫌悪に濁りきっていた。
「修、帰りましょう。やっぱり、度失敗したような傷物の女を選ぶから、こんな浅ましい目に遭うのよ。の程をりなさい!」
美咲が、そのに崩れ落ちた。 「お義母様、待ってください……修さん、かないで……!」
すがりつく娘の震えるを、修さんは無慈に振り払った。 酷な、ゴミを見るような線。
「美咲さん、悪いけど僕には無理だ。その子の父親ごっこに付きう気は、もうこれっぽっちもないよ」
男はそう吐き捨てると、両親を促し、度も陽太を振り返ることなく部をてった。 ドタドタとざかる音。 そして、料亭の仲居たちのざわめき。
残されたのは、荒れ果てた祝い膳と、畳のに突っ伏して慟哭する美咲。 そして、私のを痛いほどく握りしめている、陽太だけだった。
私は、散らかったテーブルのから、あの青いのオモチャをそっと拾いげた。 ボロボロに剥げた塗装。 輪のゴムがれ、汚れたプラスチック。
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それを、陽太のさなのひらに、しっかりと握らせた。
「陽太」
私は、泣きじゃくる娘を見ろしながら、あの子にだけ聞こえる静かな声で言った。
「もう、何も消さなくていいのよ」
陽太は、青いを両で胸に抱きしめ、粒の涙をポロポロと畳のに落とした。 それは、恐怖の涙ではなかった。 息を吸うことを許された、さな命の、最初の産声のような涙だった。
料亭の座敷をびした美咲は、実の玄関に着くなり、崩れ落ちるように泣き伏した。
着物の裾はで汚れ、結いげた髪は乱れ、畳に突っ伏したまま拳でを叩き続けた。 獣のような嗚咽が、古い本の壁を揺らす。
「どうして……どうして私の邪魔ばかりするのよ……!」
美咲は顔をげ、私を鬼のような形相で睨みつけた。 マスカラが涙で溶け、頬に黒い筋を作っている。
「私の、やっとやり直せるはずだったのに!並みの幸せを掴めるはずだったのに!母さんが……母さんがあんな汚いオモチャを投げつけたりするから……全部、台無しじゃない!!」
奥の部では、疲労と吐き気で衰しきった陽太が、私の布団のでさく丸まって眠っていた。 枕元には、あの子が片もそうとしない、あの剥げかけた青い。
私は美咲のに、湯呑みを置かなかった。 慰めの言葉も、背を撫でるもさなかった。
ちがり、茶箪笥の引きしから、古びた冊の学ノートを取りした。