"「前のパパをこっそり好きじゃダメなの?」" 第6話
カチャリ、カチャリと、の属がカップの縁に当たる乾いた音が響く。
「修さん。単刀直入に言います」
私はテーブルので両を揃え、まっすぐに男の目を見据えた。
「陽太の養子縁組と、名字の変更続き……もうしだけ、待っていただけませんか」
スプーンの音が、ピタリと止まった。
修さんの線が、カップから私の眉へと移する。そこには、先の居で見せた爽やかな笑顔の欠片もなかった。たい、能面のような無表。
「……待つ、とは?具体にいつまでですか」
「あの子が、から修さんを受け入れられるまでです。今の陽太は、あまりにも無理をしています。修さんに嫌われないため、美咲を困らせないために、歳の男の子が必で『完璧な息子』を演じているんです。このままでは、あの子のが壊れてしまいます」
「演じている?」
修さんは、でく笑った。え切った、嘲笑の響き。
「お母さん。子どもというのは順応性がいき物ですよ。最初はぎこちなくても、形から入ればそれが当たりになるんです。名字を変え、父親と呼び、同じ根ので暮らす。そうやって『族』という枠組みを完成させるのが、の責任でしょう」
「形だけえても、が追いついていなければがありません!」
わず声がくなった。隣の席の客がちらりとこちらを見る。
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私は呼吸をえ、声をく落とした。
「陽太は、の父親を忘れようとして、膝の怪の痛みすら隠しているのよ。捨てられるのが怖くて、怯えているんです。どうしてそこまで急ぐ必があるんですか」
修さんは、ゆっくりと背もたれに体を預けた。腕を組み、私を品定めするように見ろす。
「お母さん。僕が初婚だということを、忘れていませんか?」
声のトーンが、段くなった。
「僕の両親は、方の堅い柄です。男の僕が、子持ちの再婚女性を嫁にもらうと言った、実がどれだけ騒ぎになったか。親戚から『の種を育てるお好し』だと、散々ろ指を刺されたんですよ」
喉が詰まる。
「それでも僕が美咲さんと結婚するのは、世体をね除けてでも、温かい庭を築きたいとったからです。そのために、僕は千百万の宅ローンをで組みました。陽太くんを私の学に入れるための学資保険も、僕の名義で積みてを始めている」
修さんの指先が、テーブルをく叩いた。トントン、と無質な音が響く。
「これだけの覚悟とをしている僕が、のでいつまでも『の男』扱いされる屈辱に耐えろと?学の名札がの父親の名字のままで、僕の親族に会わせたに『おじさん』と呼ばれろと?そんな理尽、冗談じゃありませんよ」
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「修さん……」
「僕にとって、陽太くんを引き取ることは最の妥協であり、譲歩なんです。その代償として、僕が完璧な父親の座を求めるのは、当然の権利でしょう。の父親のを完全に消しる。それができないなら、僕はこの子を本当の息子としてすることなんてできませんよ」
背筋が、氷で洗われたように凍りついた。
この男にとって、陽太はの傷つきやすい子どもではないのだ。自分の「寛さ」と「社会責任」を証するための、トロフィーに過ぎない。いローンを払い、子持ちの女を救ってやったという、自尊を満たすための付属品なのだ。
「お母さん」
修さんは伝票をに取り、ちがった。
「あなたのその途半端な過保護が、番美咲さんを苦しめていることに、く気づくべきですよ。これ以、僕たちの庭にを挟まないでいただきたい」
それだけを言い残し、男は度も振り返ることなく、レジへと歩いていった。テーブルのに残されたブラックコーヒーは、湯気すらてず、黒くえ切っていた。
そのの夜過ぎ。
突然、激しい力で玄関の引き戸が叩かれた。ガタガタガタッ、と古い枠が鳴をげる。
私がパジャマのに羽織を着て玄関へ向かうと、鍵をけるよりもく、から声が響いた。
「けてよ!お母さん!けて!!」
美咲だった。
鍵をした瞬、引き戸が乱暴にけ放たれた。え切った夜とともにび込んできた娘は、髪を振り乱し、目は血り、異様な興奮状態で肩をさせていた。