"「前のパパをこっそり好きじゃダメなの?」" 第5話
以のあの子なら、ブロッコリーが嫌いだと匙を投げし、美咲に叱られて唇を尖らせていたはずだった。好きなテレビの特撮ヒーローにになって、ご飯粒を頬につけたまま笑い転げていたはずだった。
今の陽太は、嫌いな野菜も無言で噛み砕き、修さんの顔を盗み見ながら、きっちり分で茶碗を空にする。
「いい子だな、陽太は。男同士、分かりえて嬉しいよ」
修さんが、仕てのいいシャツの袖をまくり、陽太のをぽんぽんと撫でる。そののひらので、陽太の首筋がかすかに竦むのを、私は見逃さなかった。
曜の午、学帰りの陽太を、私は通学の角で待ち伏せした。
美咲はパートのを延ばし、しいマンションのローンや管理費のしにするのだと張り切っていた。修さんの帰宅はいつも過ぎ。鍵っ子になった陽太は、放課の数をで過ごすことになっていた。
「陽太」
柱のから声をかけると、あの子は肩をびくっと震わせ、怯えたように振り返った。私の顔を認識した瞬、張り詰めていた糸がふっと緩んだように、眉尻ががる。
「……ばあば」
「しだけ、公園でお話ししましょ。たい焼き、買ってきたのよ」
駅ので買った、まだ湯気のっている袋を見せる。陽太の喉が、ごくりと鳴った。
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児童公園のベンチ。枯れ葉がう砂をに、陽太はたい焼きの尻尾から、ちびちびと齧り始めた。昔のように「あんこがい!」と騒ぎすることもない。
ふと見ると、あの子の膝の靴に、黒いの汚れと、さな血の滲みがあった。
「陽太、ここ……転んだの?」
私が指を伸ばすと、陽太は慌ててをろに引いた。
「ううん。なんでもない」
「血がてるじゃない。痛いでしょ。消毒しなきゃ」
「ううん!痛くない!全然痛くないから!」
自然なほど激しい拒絶だった。さな両で膝を隠し、必に首を横に振る。
「……どうして隠すの?」
私の問いかけに、陽太は膝ののたい焼きを見つめたまま、ぽつりと言った。
「怪したって言ったら、絆創膏がいるでしょ」
「え?」
「ママがね、しいおはおがたくさんかかるって言ってた。修おじさんが……じゃなくて、お父さんが、僕のためにいローンを払ってくれてるから、迷惑かけちゃダメだって」
あの子のさな指先が、袋の端をぎゅっと引きちぎる。
「僕が怪したら、ママが配して泣いちゃう。ママが泣いたら、お父さんが困った顔をする。……お父さんが困ったら、僕たち、あのおから追いされちゃうかもしれない」
息が止まりそうだった。
たった歳の子どもが。の痛みをし、血を流したまま、庭の経済との顔を秤にかけている。
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「陽太。そんなこと、絶対にないわよ。修さんも、美咲も、陽太を追いしたりなんて――」
「ばあばはらないんだ!」
陽太が、初めて声を荒らげた。その瞳に、粒の涙が盛りがってくる。
「夜ね、ドアの向こうで聞こえたの。修おじさんがママに言ってた。『僕の両親に、陽太くんがのかからない聞き分けのいい子だって証しなきゃいけない』って!」
ポロポロと、涙がのに落ちていく。
「僕、いい子にしてるよ。ののことも、のパパのことも、回も言ってないよ。野菜も全部べてるよ。だから……だから、捨てないでって、ママに言ってよ……」
喉の奥が引き裂かれそうだった。私は、え切った陽太のさな体を、力いっぱい抱きしめた。抱きしめたあの子の細い背は、刻みに、刻みに震え続けていた。
私は、宮本修さんを駅の喫茶に呼びした。
美咲には内緒だった。言えば必ず狂乱して止めに入る。けれど、これ以あの子をあんな精神状態のまま放置しておくことは、祖母として絶対にできなかった。
平の夕方、暗い純喫茶の奥のボックス席。クラシックのレコードがく鳴る内に、修さんはビジネスバッグを抱えて現れた。し眉をひそめ、腕計を気にしながら私の向かいに腰をろす。
「お母さん、急に呼びすなんて、美咲さんに何かありましたか?」
ブレンドコーヒーを運んできたウェイトレスがると、修さんは砂糖もミルクも入れずにスプーンを弄んだ。