"息子の成人式で夫は言った「お前は本当の母親じゃない」" 第5話
気が利くこと。どこかの誰かさんとは違いだわ」
義母がわざとリビングの引き戸をけ放ち、台所にいる私に聞こえるように声を張りげた。
私は、無言でお湯を沸かしていた。いつもの来客用の番い玉の茶葉ではない。普段使いの、スーパーで売りされていたほうじ茶のパックを急須に放り込む。
リビングでは、すでに歓談が始まっていた。
「悠斗、部を案内してやりなさいよ。おがまで使ってたグローブとか、まだ置いてあるだろ」
夫の誇らしげな声。
「うん……じゃあ、階く?」
悠斗の、し擦った声。階段をがるの音を聞きながら、私はトレイに湯呑みを並べた。
引き戸をけて、リビングへ入る。テーブルの主席には、すでに美奈子のブランドバッグが置かれていた。その隣に座る義母が、私を瞥して、あからさまにを鳴らす。
「お茶、遅いんじゃないの? 気が利かないねえ」
私は何も答えず、夫、義母、そして美奈子の席へ、コト、コトと音をてて湯呑みを置いた。銘菓の茶菓子などさない。ただの湯呑みだけ。
「……おい、真理子。なんだよこれ。茶菓子は?」
夫が眉をひそめて睨みつけてくる。
「ありません」
「は? 昨買ってこいって言っただろ!」
「買いにくがありませんでした。午、お義母さんの病院の付き添いと、お父さんのワイシャツのアイロンがけで杯でしたから」
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淡々と事実を並べると、義母がピクッと頬を引き攣らせた。
「なによ、私の病院のせいにするわけ? 嫁のくせに、たまの来客のおもてなしつできないなんて、親の顔が見てみたいわね」
そのとき、階段から悠斗と美奈子がりてきた。
美奈子はリビングを見渡しながら、極まったように細い指を胸元に当てていた。
「本当に……すっかりきくなって。部の柱に、背比べの傷が残っているのを見たら、涙がそうになっちゃいました」
……背比べの傷。
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられる。学の、悠斗が「真理子さん、僕、今何センチ伸びた?」と聞いてきて、で笑いながら油性ペンで柱に印をつけたのだ。夫は仕事で、義母はデイサービス。あの部で、あの子の成をミリ単位で見守り、記録してきたのは、全部私だ。
それを今、このは「自分のの空」を埋めるための、都のいい傷として消費している。
「美奈子さん、座って」
夫が甲斐甲斐しく子を引いた。
「悠斗のさい頃の話なら、俺がなんでも話してやるから。あいつ、学の反抗期が酷くてさ、変だったんだぞ」
「まあ、健さん、あなたが悠斗の反抗期に何をしたっていうの?」
わず、声がた。乾いた、たい声。
リビングの空気が、ピキリと凍りついた。
夫が顔を真っ赤にしてちがる。
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「お、さっきから黙って聞いてりゃ、客のでなんての利き方配だ!」
「客?」
私は美奈子を見た。美奈子は困惑したように目を瞬かせ、居悪そうにを縮めている。
「お客様なら、もっときちんとおもてなしをしなければなりませんでしたね。でも、お義母さんは先ほど『本当の族が戻ってきた』とおっしゃっていました。なら、私はもう、席をしてよろしいですね」
「真理子!」
背にんでくる夫の号を無して、私はリビングの引き戸をピシャリと閉めた。
逃げるように向かった洗面所。蛇をひねり、たいで顔を洗う。鏡のの自分は、唇を真っ青にして、鬼のような形相をしていた。
醜い。自分が、たまらなく醜くて惨めだった。かけて築いてきたはずの私のは、血の繋がった母親というたったの侵入者によって、瞬で砂の楼閣のように崩れっていく。
カチャリ、と洗面所のドアがさくいた。
振り返ると、美奈子がっていた。
「……何かご用ですか」
美奈子は両をで揃え、申し訳なさそうにをげた。
「真理子さん。急にお邪魔してしまって、ごめんなさい。健さんから『妻も歓迎している』と聞いていたものですから……」
……歓迎している?
乾いた笑いが込みげてくる。夫は、どこまで嘘をねれば気が済むのだろう。
「お気遣いなく。
私はただの同居ですから」
「そんなことありません!」
美奈子は歩踏み込んできた。その瞳には、嘘偽りのない、純粋な同と謝が浮かんでいた。