"息子の成人式で夫は言った「お前は本当の母親じゃない」" 第2話
「なんだよ、さっきからその満そうな顔は」
言葉がなかった。 りよりも先に、信じられないというが喉元までせりがってくる。
「満……? 健さん、どうして私に言も教えてくれなかったの?」
「言ったらお、嫌な顔するだろ」
夫は何事もなかったかのようにを鳴らした。
「悠斗の実の母親なんだぞ? 歳の節目くらい、会わせてやりたいとうのが親だろ。おはいつも『悠斗の幸せが番』って言ってただろうが」
……私の気持ちを、隠し事の正当化に使うの?
「私が嫌がるから言わなかったの? 違うでしょう。事に言えば、私が反対するとったから……いいえ、私が傷つくのをっていて、無したんじゃないの?」
「げさなんだよ」
夫は苛ったように舌打ちをした。
「ただ写真を枚撮っただけだろ。おは毎緒に暮らしてるんだから、それでいいじゃないか。器のさいこと言うなよ」
器。 この、夫はこの言葉で私を縛り付けてきた。 「真理子は物分かりがいいから」「真理子はだから」。 それは褒め言葉ではなく、ただ都のいいサンドバッグにするための呪文だったのだ。
コンソールボックスに置かれていた、夫のスマートフォンがく震えた。 画面が点灯する。 通プレビューに、見慣れないメッセージが表示された。
『健さん、先決めた通り、写真館の配ありがとうございました。
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悠斗に会えてのようでした』
先。
文字が、網膜に焼き付く。 先――悠斗が「歳の写真は、あの古い写真館で撮りたい」と私に言ってきた、ちょうどその期だった。
息が止まる。 悠斗が言いしたのではない。 夫と、義母と、そして――あの子が。 私を騙すために、あの写真館を選んだのだ。
に着いても、悠斗は言も発しなかった。 玄関で靴を脱ぐと、逃げるように階の自へ駆けがっていく。
「悠斗」
呼び止めても、階段を軋ませる音は止まらなかった。 バタンと、くドアが閉まる音。
着物を脱ぎ、な部着に着替える。 帯を解いた瞬、どっと胃のあたりに鉛のようなさが落ちてきた。 鏡に映る自分の顔は、青ざめて、ひどく老け込んで見えた。
何のために、朝く起きて髪を結い、慣れない装にを包んだのだろう。 誰のために、パート代を削ってあの代を支払ったのだろう。
台所へつ。 夕飯の支度。 先が勝にき、根の皮を剥く。 、度も休まずに続けてきた作業。 けれど包丁を持つが刻みに震えて、うまく力が入らない。
リビングでは、夫が缶ビールをけるプシュッという音が響いた。 テレビのバラエティ番組の笑い声。 何事もなかったかのように、常が流れていく。 それが、何よりも残酷だった。
「おい、真理子。飯まだか?」
リビングから夫の呼ぶ声。
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「今さ、美奈子から連絡があってな。悠斗が育った部を見たいって言ってるんだ。来週の曜、に呼ぶから」
トントンと鳴っていた包丁の音が、止まった。
「……に?」
「ああ。あいつも母親なんだから、どんな暮らしをしてたのかりたいだろ。お、何か気の利いた茶菓子でも用しといてくれよ」
私の背に投げかけられるその言葉には、罪悪の欠片もなかった。 このは、自分が何を言っているのか、本当に理解していない。 私がどれほど踏みにじられたか、像することすら放棄している。
「断ってください」
私は振り返らずに言った。 声が、自分でも驚くほどくたく響いた。
「……あ?」
「ここは私のです。あのを、このに入れるのは嫌です」
ドカッと、夫がダイニングチェアを引く音がした。
「お、いい加減にしろよ! 美奈子は別に復縁したいとか言ってるわけじゃないんだぞ! 息子の顔を見に来るだけだろ! なんでそんなにが狭いんだ!」
「が狭い?」
私はゆっくりと振り返った。 濡れたを布巾で拭きながら、夫の顔をまっすぐに見つめた。
「写真館で、あなたは言ったわね。『このは実の母親じゃない』って。カメラマンので、悠斗ので」
「事実だろ!」
「ええ、事実よ。私は産んでいない。でも、、をしたあの子の病をしたのは誰? 者面談にったのは誰? 毎ご飯を作ったのは誰? あのは、どこで何をしていたの?」