"19歳で相続した呪われた屋敷" 第11話
しずは息をみ、鑿の先をの継ぎ目に差し込んだ。
微かな応えが、のひらに伝わってくる。
その作業に没しているにも、の世界では穏なきが始まっていた。
川宿の通りでは、黒崎像のたちがうろつき回っている。
しずや、彼女が助けたあの母子がどこに消えたのかを、しつこく探っていた。
黒崎にとって、最の敷で何がわれているのかは、自の元を揺るがす最の脅威だった。
かつて父親を追い落としたと同じを使うつもりだ。
今度はこの世らずの娘をから追いすか、あるいは度とが利けないように仕向ける。
そのための謀が、裏で着々とめられていた。
しかし、しずはもはや怯えるだけのい女ではなかった。
彼女は戸での貧しい活ので、世のたさとの醜さを嫌というほど見てきた。
そして、あの広な林と敷を自分ので歩いた。
の音を聞き、井戸のを汲みげるうちに、このが持つ本来の美しさとさを肌でじ取るようになっていた。
この所は、決して呪われた墓などではない。
かつて傷つき追放された者たちが、それでも懸命にき抜こうとした証が刻まれた、かけがえのない故郷の原点だったのだ。
彼女は、隠し扉の周囲のや苔を丁寧に掻き落とした。
広告
さらに奥へと続く構造をらかにしていった。
その、背で微かな音がした。
しずは構え、に持った鑿をしっかりと握りしめた。
振り返ると、暗い段のの方からいが差し込んでいた。
そこにっていたのは、の姿ではなかった。
あの庭の隅にいつも佇んでいた、片目の潰れた古い犬だった。
犬は、静かに段をりてきた。
彼女の元にぴたりと寄り添い、じっと奥の壁を見つめた。
まるで彼女の作業を伝うかのような仕だった。
しずはさく息をつき、再び壁に向きった。
彼女は力を込め、斧を振りろした。
鈍い衝撃音が、のに反響した。
閉じ込められていた古い空気が、気にへと吹きした。
崩れ落ちた砂と古い瓦礫の向こうに、さらに広い空の気配が広がっていった。
そこに何があるのか。
どんな真実が眠っているのか。
しずは歩へ踏みし、蝋燭のかりをく掲げた。
そのの先に、かつての族が命懸けで守り抜こうとした決定な証拠のが、ぼんやりと浮かびがってきたのである。
しずが隠し扉の向こうの空から見つけしたのは、かつての正を証する決定な証拠の数々だった。
それは、古いに幾にも記された断片の記録だった。
被害者たちの名が刻まれた帳面、そして奪われた財産のリスト。
広告
埃にまみれたその束をに取っただった。
しずは、祖父や父親がなぜ沈黙をいられなければならなかったのかを、痛いほどく理解した。
彼らは卑怯者だったから黙っていたのではない。
あまりにも巨で暴力な権力のでは、ただ族の命を守るため、息を潜めてきるしかなかったのだ。
しかし、その因縁を自らの世代で断ち切るのだという決が、しずの胸ので静かに、しかし確かな炎となって燃えがっていた。
彼女はその古文を丁寧に綿の布で包んだ。
肌さず持ち歩くために、套の内側にしっかりと縫い付けた。
そのから、最の敷の修復に向けた本格な過酷な肉体労働が始まった。
戸ので育った細のしずにとって、それは像を絶する労働だった。
傾いた柱を正し、腐った板を剥がし、崩れかけた壁を塗り直す。
夜けと共に目を覚まし、たい井戸で顔を洗う。
すると彼女は、すぐに斧や鑿をに取った。
朝に濡れた松林から吹き抜けるはたかった。
のひらにはすぐに無数のマメができ、やがてそれが潰れて血が滲んだ。
しかし、彼女は度として音を吐かなかった。
痛む筋肉を堪え、父が残してくれた具のみをのひらにじながら、黙々と作業を続けた。
最初の難関は、母の側の傾いた柱と、漏りで腐した根の修繕だった。
素がでをて直すなど、能にい。