"19歳で相続した呪われた屋敷" 第4話
その背には、母よりも頑丈できな納が黒々とそびえっていた。
固く閉ざされた両扉は、微だにしていなかった。
壊れた巻きげのある、古びた井戸。
崩れかけた柵の残骸。
その向こうには、果てしない松林がただ黒々と広がっていた。
かりもなく、煙もていない。
きている者の気配は、切なかった。
しずは、ゆっくりと縁側にづいた。
まるで、何かい閉じ込められていたものが、じっと息を潜めて待ち続けていたかのような、回の静かなノックの音だった。
しずは、ので目を見いた。
彼女は、じろぎもしなかった。
その音は、度と繰り返されることはなかった。
彼女は、のでから百まで数を数えた。
さらにそれを繰り返しながら、再びその音が聞こえるのを待った。
聞こえてきたのは、たいの唸りだけだった。
えゆくがてる、細かな組みの軋む音だけが響いていた。
やがていが過ぎた。
いつのにか、しずはたい板ので眠りに落ちていた。
窓のがに染まり始めた。
蝋燭がさな蝋の塊へと変わった頃に、彼女は目を覚ました。
頬に接していた板は、氷のようにえ切っていた。
しずは、ゆっくりとを起こした。
自分のが触れていた板を、じっと見つめた。
それは、普通の松の板だった。
広告
古びて黒ずみ、打ち込まれた太い釘はすっかり錆びついている。
どこにでもある、古い板だった。
しずはちがり、のので改めてを見渡した。
囲炉裏のは綺麗に組まれている。
テーブルはく、つの子は対になっていた。
側の壁に備え付けられた戸棚にづいた。
そこには、最の文字が入った皿が枚あった。
さな茶碗がつ、骨の柄がついたナイフ。
そしてさな鉄の鍋が、全て同じ柔らかな埃に覆われたまま収められていた。
まるで誰もにすることのなかった夕の支度を、誰かがそのまま残していったかのようだった。
奥の廊をんだ。
そこには、黒い鉄のストーブが置かれた狭い台所があった。
薪箱は、空っぽだった。
寝には、ネズミに荒らされた古びた寝台が置かれている。
もうつの部には、何つ置かれていなかった。
軋む階段を、段ずつ確かめながら階へがった。
歪んだ根のに、つの部があった。
壁の釘にかけられた筋の縄があった。
窓辺に転がった、子供用の片方のブーツ。
には、何も残されていなかった。
しずは、そのさなブーツをに取った。
しばらくの、彼女はそれをじっと見つめた。
革はひび割れ、つま先はすり減っていた。
彼女は、それを元の所にそっと戻した。
階へとりた。
広告
に戻ると、彼女は音を確かめるように、歩歩板を踏みしめながら歩いた。
ほとんどの板は、同じような乾いた音を返した。
しかし、囲炉裏の側、自分が眠っていた所のすぐくに差し掛かったのことだ。
枚の板だけは、踏むと音が違っていた。
空洞の音ではない。
く、く、まるでそのにある空が別の呼吸をしているかのような、い響きだった。
彼女は、そのに膝をついた。
板の継ぎ目に、そっと指を滑らせた。
板はぴったりと組みわされ、釘は平らに打ち込まれていた。
隙は、どこにも見当たらない。
しかし、音だけがそこに秘密があることを告げていた。
しずはちがり、歩引きがった。
幼い頃、父親が教えてくれた言葉が蘇った。
というものはな、を澄ませば自分がどんな所であるかを語ってくれるものだ。
彼女には、板を剥がすための具がなかった。
分なもなかった。
そして何より、まだその真実をる覚悟が完全にはできていなかった。
しずは、その枚の板を囲炉裏のからの距でしっかりとに刻んだ。
彼女は、旦へることにした。
庭にると、空は鉛に凍りついていた。
松林の向こうに、たい朝が広がっている。
縁側にった彼女のから、い息が漏れた。
そのい息の向こうに、匹の犬が佇んでいた。
納の角にじっと座り、彼女が気づくのを待っていたかのようだった。
その犬はひどく痩せ衰え、毛並みは枯れだった。