"19歳で相続した呪われた屋敷" 第2話
しずが名乗りを告げると、彼は静かにちがった。
彼の態度にはなかった。
しかし、その顔ちは、すでにくのものを失ってきた者に向けるような、い愁と労りのを帯びていた。
彼は、机の向こうの子を勧めた。
そして、急須からえた湯をさな茶碗に注いだ。
「で来たのかね」
が、探るような線で尋ねた。
しずは、まっすぐに相の目を見た。
「に誰もおりません」
老は、ゆっくりとく頷いた。
まるでその返答を、あらかじめ予期していたかのようだった。
しかし、それでもなお、彼はを痛めているように見えた。
それから彼は、革製の綴じ込みをいた。
枚の古い巻を、机ので滑らせるように差しした。
しずは、そこにそっとを置いた。
彼女は、指先で文字を追いかけた。
そこに記されていたのは、違いなく彼女の名だった。
単独相続。
そのは、川宿からへ4キロほどれた所にあった。
なだらかな尾根を登った先の、鬱蒼とした松林に囲まれたである。
母と納、枯れた井戸。
崩れかけた馬。
11、の牛も繋がれたことのない広い耕作。
そして、その物件の概のすぐには、びっしりと借の細が並んでいた。
未納の貢。
隣町の融業者が握る形。
雑貨のツケ。
それらの数字をのでしわせる。
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敷の推定価値との差額は、わずか数円ほどしかなかった。
「放棄しても構わんのだよ、お嬢さん」
は、目を伏せて穏やかに言った。
「の誰も責めやしない。役所に渡してしまえばいい」
しずは、巻から顔をげた。
「どのくらい考える猶予がありますか?」
は、静かに答えた。
「署名のから30だ。もし署名するならね」
しずは、再び巻の文字を見つめた。
き父親の最に震えていた、細い指先をいした。
父親は、19の、度もあのについて語ったことはなかった。
それなのに今、祖父の名のに父親の名がある。
そしてそのに、自分の名が記されている。
しずは、さな声で尋ねた。
「どうして誰も、あのにづかないのですか?」
は、言葉を選びながら慎に答えた。
「噂があるのさ、お嬢さん。あそこであったことについてね」
彼は、窓のへ線を巡らせた。
「わしはそういう迷信は信じないが、聞きたくなくともに入ってくる。の者は、あそこを隠し敷と呼んでおるよ」
しずは、返事をしなかった。
彼女は、ただ次の言葉を待った。
しかし、老はそれ以何も語らなかった。
しずは、硯からを取った。
迷いのない致で、自分の名をき入れた。
彼女は、息を吹きかけて墨を乾かした。
巻を丁寧に畳むと、母親の套の内ポケットにそっと滑り込ませた。
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へると、たいが頬を打った。
黒崎像の笑い声は、事務所の戸だけで終わることはなかった。
板張りの通りを伝い、しずが呂敷包みを抱えて表にる頃には、向かいの酒の縁側へとすでに伝わっていた。
の男が腰にを当てている。
彼らは、彼女が通り過ぎるのをややかな目で見つめていた。
が、い声で何かを呟いた。
もうが、を痛めた駄馬を眺めるかのようなたい笛を、吹き鳴らした。
しずは、首を曲げることもなかった。
傾いた教会の字架をまっすぐに見据えながら、定の歩幅で歩み続けた。
母親の羽織のぬくもりが、肩を包んでいる。
その内ポケットに収まった巻が、まるでつ目のたい臓のように、肋骨にしっかりと寄り添っていた。
雑貨ので、しずはを止めた。
必なのは、わずかな灯油、塩、干し魚、茶葉、そして数本のい蝋燭だった。
今朝の馬ので、銭入れを確かめたのことだ。
彼女は、文の狂いもなく計算していた額をいした。
番の女は、しずの顔を見るなり、元をいやらしくへ字に曲げた。
女は、何も言わずに麦の目方を測った。
何も言わずに、茶葉を包んだ。
しずが代を求めると、女は窓のをちらりと盗み見た。
女は、い声で囁いた。
「お、本当に今夜あそこにくつもりかい?」
しずは、静かに頷いた。
「はい」
女の目が、驚きに見かれた。
「でか?」
しずは、表を変えずに答えた。