"愛人の妊娠と封印されたカルテ" 第8話
背から、莉奈の酷な嘲笑が追いかけてくるような気がしました。
そのの夕方。
郊の古い敷では、義母の絹が嫌で台所にっていました。
いつもなら恵子にすべて押し付けていた料理を、今ばかりは自分で腕を振るい、級な鯛の尾付きを焼き、赤飯を炊いていました。
「今夜はうちの跡継ぎのお祝いだよ。莉奈さんには番いい部位をべさせてあげなきゃね」
義母は独り言を呟きながら、嫌でをっていました。
ガラガラ、と玄関の引き戸が乱暴にく音がしました。
「おや、敏夫かい? かったね。莉奈さんはどうしたんだい? 病院で疲れて休んでるのかい?」
義母が笑顔で居から玄関へと顔をしました。
しかし、そこにっていた息子の姿を見て、義母は息を呑みました。
敏夫のスーツはで汚れ、ネクタイは引きちぎられ、髪はボサボサに乱れていました。顔は気で、目は血り、まるで霊のように虚ろな線で宙を彷徨っています。
「敏夫……? どうしたんだい、その姿は! 事故にでも遭ったのかい!?」
義母が駆け寄ると、敏夫はそのに崩れ落ちるように膝をつきました。
そして、に額を擦り付けながら、掠れた声で呟いたのです。
「……母さん……。全部……全部、終わりだ……」
「何を言ってるんだい! しっかりおし!」
「子供は……俺の子じゃなかった……」
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義母のきが止まりました。
「……は? 何をおかしなことを言ってるんだい。莉奈さんのお腹にいるのは、うちの内孫だろう?」
「違うんだよ!」
敏夫は絶叫しました。
「莉奈はもう妊娠ヶだったんだ! 俺と会うから別の男のガキを孕んでたんだよ! 俺は……俺はただの財布代わりに騙されてただけだったんだ!」
「な……っ!?」
義母のから、持っていた湯呑みが滑り落ち、畳ので々に砕け散りました。
い茶がび散り、義母の元を濡らします。
「そ、そんな……そんな馬鹿なことが……! だって、あの子はうちの跡継ぎを産んでくれるって……! 私が買い与えたあの着物や宝は!? 渡した百万の切れ代わりの結納はどうなるんだい!?」
「それだけじゃないんだ、母さん……!」
敏夫は涙とを垂れ流しながら、、決してにしてはならなかったパンドラの箱を、自らのでこじけました。
「俺なんだよ……子供ができなかったのは、恵子じゃなくて……俺のせいだったんだ!」
「……え?」
「俺は、無精子症だったんだよ! に病院でそう診断されてたんだ! 俺の体からは精子がつもないんだ! おたふく邪の遺症で、俺は、子供を作れない体だったんだよ!」
静まり返った玄関に、敏夫の告が響き渡りました。
義母はを半きにし、目を剥きそうになりながら息子を見つめていました。
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「な……何を……おは何を言っているんだい……? 嘘だろう……? おは私の自の息子だよ……? 悪いのは……悪いのは全部、あの女の恵子じゃなかったのかい……!?」
「俺だったんだよ! 俺が子供を作れない役たずだったんだ! 恵子は何も悪くなかった! 健康で、子供が産める体だったんだ! 俺が……俺が自分のプライドのために、診断を隠して、恵子に全部の罪を擦り付けてたんだよ!」
義母の顔から、急速に気が失われていきました。
。
自分が「女」「役たず」「うちの血を絶やそうとする疫病神」と罵り、いたぶり、扱いしてこなかった嫁。
その嫁は完全に無実で、自分の血を分けた自の息子こそが、系を絶やした張本だった。
そしてその真実をりながら、息子は自分を騙し、嫁を追いし、の種を宿した詐欺女に財を貢ぎ込んでいた。
「ああ……あああ……」
義母の喉から、空気の漏れるような掠れ声が漏れました。
「嘘だ……嘘だと言っておくれ、敏夫……! ご先祖様に……ご先祖様に何て言えばいいんだい……! うちの系が……私の代で……途絶える……?」
義母はそのに卒倒し、たい廊に崩れ落ちました。
割れた湯呑みの破片が、の惨な現実を無慈に照らししていました。
その、敏夫の実は文字通りの獄と化しました。
莉奈はすでに敷から私物をすべて持ちり、方をくらましていました。
敏夫が警察に駆け込んでも、「認であり、銭も贈与とみなされる能性がい。民事介入だ」と払いをらいました。