"愛人の妊娠と封印されたカルテ" 第6話
「初めまして。莉奈さんですね。今は妊娠の確定診断と、定期健診ということでよろしいですか?」
「はい! 夫の敏夫です。よろしくお願いします、先!」
敏夫は頼まれもしないのに声で自己紹介をし、医師のに陣取りました。
莉奈はさく会釈をしただけで、居悪そうにを縮めています。
「では、莉奈さん、まずは超音波で赤ちゃんの状態を見ましょう。奥のベッドに横になって、お腹をしてくださいね」
護師に促され、莉奈はカーテンの向こう側の診察台へとがりました。
敏夫も当然のようにカーテンの奥へと入り込み、ベッドの脇にちました。画面に映しされるであろうが子の姿を、今か今かと待ち構えていたのです。
「ちょっとたいゼリーを塗りますよ」
医師がプローブと呼ばれる器具を莉奈の腹部に当てました。
暗いモニターの画面に、黒の超音波画像が映しされます。
敏夫はを乗りし、画面を凝しました。
モニターには、丸い胎嚢と、そので微かにくさながはっきりと映しされていました。トク、トク、トク、と力い音が、スピーカーを通して診察に響き渡ります。
「おお……! いている! これが俺の子か! 先、元気な男の子ですか? 週数通り順調ですか?」
敏夫はに声を震わせ、興奮気に医師に詰め寄りました。
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しかし。
プローブをかしていた松永医師のが、ぴたりと止まりました。
医師の眉根が、怪訝そうにく寄せられます。
画面の映像を静止させ、キーボードを叩いて胎児ののきさ(BPD)や腿骨のさ(FL)をく計測していく医師の表から、先ほどまでの穏やかさが急速に消えっていきました。
診察に、苦しい沈黙が落ちました。
「……先? どうしたんですか? 何か異常でも?」
敏夫がそうに尋ねます。
医師はモニターを見つめたまま、静かにをきました。
「奥さん。回の経の初は、いつでしたか?」
カーテンの向こうから、莉奈の微かに震える声が返ってきました。
「え……っと、ヶくらい……だったといますけど……」
「ヶ?」
医師は振り返り、厳しい線を莉奈に向けました。
「そんなはずはありませんね。この胎児の発育状態、蓋骨の骨化のみ具、腿骨のさ、どれを見てもらかです。胎児の推定週数は、現【妊娠週】――つまり、妊娠ヶに入っていますよ」
「……は?」
敏夫のから、の抜けた声が漏れました。
妊娠週。ヶ。
数字のが、すぐには脳に浸透してきませんでした。
「な、何を言っているんですか、先。計算がいませんよ。ヶですよ? 莉奈と僕が……その、そういう関係になったのは、今からちょうどヶなんです! 妊娠ヶなんて、そんな馬鹿なことがあるはずがない! 械の故障じゃないんですか!?」
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敏夫は狼狽し、唾をばして医師にってかかりました。
しかし、松永医師は静に、そして淡に首を横に振りました。
「械の故障ではありません。週の胎児と、ヶ(妊娠週)の胎児を取り違える産婦科医はこの世にいませんよ。妊娠ヶなら、まだ胎児はにもなっておらず、センチにも満たないさなです。しかしご覧なさい。この子はもう指の骨も形成され、臓のつの部もしっかりと分かれている。どうなく見積もっても、受胎したのは【ヶ以】――初のことです」
「よ、ヶ以……?」
敏夫のので、カチリと音がして、が止まりました。
ヶ。
その頃、敏夫はまだ莉奈のすらりませんでした。彼が莉奈の勤めるクラブに通い始めたのは、わずかヶ半。初めてホテルにったのは、ちょうどヶのことです。
ヶ、莉奈のお腹のにこの命を宿らせた男は――絶対に、自分ではない。
「……おい」
敏夫の喉から、掠れたような、獣の唸り声のような音がました。
彼はゆっくりと首を巡らせ、ベッドのの莉奈を見ろしました。
「おい、莉奈……これ、どういうことだ……? おい! 説しろ!」
莉奈は顔面を蒼にし、診察台のでガタガタと震えていました。医師や護師のややかな線に晒され、もはや言い逃れができないことを悟ったのか、彼女はシーツを握りしめ、目を泳がせながら叫びました。