"愛人の妊娠と封印されたカルテ" 第2話
お義母様にも、いお孫さんをたくさん抱かせてあげたいですし」
「おお、莉奈さん、なんて殊勝な子なんだい。どこぞの女とは違いだ。敏夫、くそのに名をかせなさい。ぐずぐずしていると縁起が悪いわ」
義母が唾をばしながら急きてる。
私は、鳴りませんでした。
に突っ伏して泣き叫ぶことも、夫の胸ぐらを掴んで罵倒することもありませんでした。
私ののに広がっていたのは、燃え盛るようなりではなく、の底のようにたく、どこまでも澄み切った静寂でした。
ああ、終わったのだ。
このたちにとって、私はですらなく、ただの便利な政婦であり、系を繋ぐための「壊れた械」に過ぎなかったのだと、目にして完全に悟った瞬でした。
絶望というすら通り越して、胸の奥底で何かがぷつりと音をてて千切れました。
「ペンを貸してください」
私の声があまりにも平坦で、震えひとつなかったことに、敏夫は拍子抜けしたような顔配を見せました。もっと取り乱し、座をして「捨てないでください」と懇願されるとでもっていたのでしょう。傲な男の期待を裏切るように、私は敏夫が差しした級万を受け取りました。
机のに置かれた婚届の妻の欄に、私の名を迷いなくき入れます。
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旧姓、恵子。
そしてエプロンのポケットから、いつも認印として使っていた柘植の印鑑を取りしました。朱肉をつけ、の繊維にく沈み込ませるように、まっすぐに捺印しました。
朱の円が、いのに鮮血のようにくっきりと浮かびがりました。
「……これで、よろしいですね」
私が顔をげて静かに告げると、敏夫は気圧されたように瞬だけ目を泳がせました。しかしすぐにを鳴らし、取り繕うように胸を張りました。
「ふん、物分かりが良くて助かるよ。慰謝料だの財産分与だの、くだらないことを言いしたら承しないからな。おは子供を産めずにうちの血を絶やそうとした責配偶者みたいなもんだ。つでてくだけでも謝しろ」
「ええ。何もりません」
私はちがりました。
膝の震えはありませんでした。むしろ、ぶりに背筋がまっすぐに伸びたような錯覚さえ覚えました。
「、役所にこれを提しておきます。私の荷物は、今夜にまとめます」
「今夜だなんて言わず、今すぐまとめててけばいいのに」
義母が嫌たっぷりに吐き捨てましたが、私はもうその言葉に傷つくことすらありませんでした。軽く礼し、私は居をにしました。
背から、「やったわね、敏夫さん」「ああ、これで僕たちも本当の族だ」
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という浮かれた声と、義母が莉奈を褒めそやす甲い笑い声が追いかけてきましたが、そのすべてが、い異国の言語のように私のを素通りしていきました。
階の、向きの暗い。
そこが、このきな敷ので私が唯、息を吸うことを許された所でした。
当たりの良い側の主寝は敏夫が独占し、私はいつからか、この物置同然の部で布団を敷いて寝るようになっていました。
部の隅に置かれた、季の入ったつのスーツケースをけました。
持ってくものは、驚くほどなかったのです。
こので買い与えられたなどほとんどありませんでした。敏夫や義母の目につかないよう、セールのワゴンから選んだなばかり。それらをゴミ袋に詰め込み、本当に必なものだけを選別していきました。
母の形見の着物。
自分が宅ワークでしずつ貯めてきた、私名義の通帳。
そして、古い文箱の底に隠すように仕い込んであった、枚の類。
私はその黄ばんだ封筒をに取り、から折り畳まれた処方箋と診断の控えを引きしました。
付は、のものが記されています。
指先でそのの触を確かめながら、私の脳裏に、かつての苦渋に満ちた記憶が蘇りました。
結婚してが過ぎた頃、子供ができないことを理由に、義母の嫌がらせは狂気を帯び始めていました。
所の怪しげな祈祷師から買い求めたという、のような匂いのする煎じ薬を毎朝無理やりまされ、神社の階段を何往復もお百度参りさせられました。