"愛人の妊娠と封印されたカルテ" 第1話
目のの季が入った欅のローテーブルのに、緑の枠線で縁取られたが枚、置かれていた。
役所の窓で誰でもに入れることができる、何の変哲もない類。けれどその最部に印刷された『婚届』の文字は、の夕暮れの暗いので、まるで毒虫のようにたくっていた。
私の線の先で、夫の敏夫がこれ見よがしに組んだ脚を組み替え、仕ての良いスーツの袖を引っ張りながら、ふんとを鳴らした。歳になった夫の顔には、の怠惰と傲さが刻まれている。しかし今の彼の表には、それらを覆い隠すほどの、気悪い全能が満ちていた。
「しい命を授かったんだ。子供を産めない君には、もうこのをてってもらう」
敏夫の声には、連れ添った妻に対するけのかけらも、別れを告げる痛痒も含まれていなかった。ただ、古くなった具を粗ごみの回収にすかのような、軽で無慈な響きだけがあった。
彼の隣には、代半とおぼしき若い女性が座っていた。派すぎないように計算された淡い桜のニットワンピースにを包み、入れのき届いたい髪を肩に流している。その指先には淡いピンクのネイルが施され、まだ膨らんでもいない自分の腹部を、まるで割れ物でも扱うかのように両でおしそうに撫でさすっていた。
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莉奈、と敏夫は呼んでいた。夫が通う級クラブのホステスだった女だ。
部には、彼女が纏うっぽい甘さのが充満し、このに染み付いてきた檀の線と古い畳の匂いを品にかき消している。莉奈は伏し目がちに、だが隠しきれない優越をその瞳の奥にギラつかせながら、私をちらりと盗み見ていた。
そして、座の肘掛け子には、義母の絹がふんぞり返っていた。今で歳になる義母は、のひらで何度も自分の膝を叩きながら、顔の皺を歓で歪ませていた。
「これでやっと、うちの系も途絶えずに済むわ。ああ、ご先祖様に顔向けができる。本当にかった……も待たされて、もうこの血筋も私の代で終わりかと絶望していたのよ。役たずをいつまでも囲っておくほど、うちはお好しじゃないんだからね」
義母の声は甲く、の奥に突き刺さるように響いた。
。
言葉にすればたったの文字、つの音に過ぎないその歳が、私の胸ので音をてて軋んだ。
。数にして千を超える途方もない、私はこのに尽くしてきた。
毎朝に起き、まだ誰も起きてこないえ切った台所で汁を引くことから私のは始まった。敏夫の好みにわせた朝を並べ、糊のきいたワイシャツにアイロンをかけ、義母の気まぐれな言と理尽な癇癪をすべて笑顔で受け流してきた。
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義母が膝を悪くすれば毎病院への送り迎えをし、義父がくなった際には煩雑な親族の付きいや法事の配をすべてで背負い込んだ。計を預かり、敏夫が無駄遣いする料の穴埋めをするために、内職や宅の帳簿付けの仕事を夜遅くまでこなした。のひらはあかぎれと洗剤で荒れ果て、かつてピアノを弾いていた細い指は、すっかり節くれっていた。
それだけのを、馬馬のようにただ耐え、尽くし、族という形を守るために捧げてきた私の。
それが今、目のの男たちにとっては、ただの「用品」として片付けられようとしていた。
「……おい、聞いてるのか、恵子」
敏夫が苛たしげにテーブルを指先で叩いた。
「莉奈は事な体なんだ。おみたいな気な顔をした女がいつまでもこのにいたら、胎教に悪い。荷物はにまとめててけ。このの敷居を度と跨ぐなよ。実にでも泣きつくんだな。もっとも、おの両親はもうとも界してるんだったか。まあ、どこぞのアパートでも探して、寂しく野垂れぬのがお似いだ」
莉奈がくすりとさく笑い、敏夫の腕にすがりついた。
「敏夫さん、そんな言い方しちゃですよ。奥様だって、子供が産めない体でまれたくてまれたわけじゃないんですから……ね? でも、私、敏夫さんの赤ちゃんを派に育ててみせます。