"リフォーム代二百万を払った実家に、他人が住んでいた" 第15話
敷内には切関係のない方ですので、ち入らせないようにお願いいたします」
『部者』。
実の母親のから告げられたその言が、兄の胸にトドメの楔として打ち込まれました。
兄は膝から崩れ落ちそうになるのを必で耐え、ボロボロのサンダルを引きずりながら、よろめく取りでずさりを始めました。
「くそっ……くそっ……!」
負け惜しみの呪詛を吐き捨てながら、兄は度も振り返ることなく、通りの雑踏のへと姿を消していきました。 そのさく丸まった背には、かつてが物顔で実のに君臨していた男の面など、芥ほども残されていませんでした。
くから、づいてくるパトカーのサイレンが微かに聞こえていました。
に入り、の葉が鮮やかな黄や赤に染まり始めた頃。
曜の午、私は学になる娘のを引いて、母のマンションを訪れました。
兄の会社は先末に正式に破産続きに入り、義姉との婚も成したと、の噂で聞きました。 兄は今、郊の古い造アパートにでを寄せ、派遣の仕事をしながら、残った債務の理に追われているそうです。 あの以来、兄が母のに姿を現すことは度とありませんでした。
エレベーターを階でり、柔らかなの差しが差し込む廊を歩いて、母の部のまでやってきました。
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「あ、ママ見て!」
娘がピョンとねて、玄関ドアの横を指差しました。
そこには、真しい製のさな表札が、属のフックにしっかりと掛けられていました。
旧実にあったような、古びて威圧な『佐藤』の文字ではありません。 目の美しいサクラのに、温かみのある彫刻で、こう刻まれていました。
『佐藤 子』
の名でもなく、族を代表する記号でもない。 母自の、たったつの、尊い名でした。
ピンポン、とインターホンを鳴らすと、軽やかな音が廊を駆けてきて、カチャリと鍵がきました。
「いらっしゃい、よく来たわね」
ドアをけた母は、エプロン姿で満面の笑みを浮かべていました。 部のからは、甘辛く煮付けた根菜の、懐かしい良い匂いがふわりと漂ってきます。
リビングの壁では、旧実から連れてきたあの古い振り子計が、 カチ、コチ、と、静かで確かなリズムを刻み続けていました。
「ばあば、この表札、すっごくいね!」
娘が無邪気に言うと、母は玄関先の自分の名をおしそうに指先でそっと撫でました。
「そうでしょう? 昔のはね、お父さんと緒に守ってきただったの。 でも、このはね……私が、自分の志で、自分で選んだなのよ」
そう言って笑う母の横顔には、もう何の迷いも、怯えもありませんでした。
の青空が、ベランダの向こうにどこまでもく、澄み渡っていました。