"「母の十分は無駄」と笑った夫の失脚" 第14話
説会が終わり、返と補償の続きを終えた、私は母を連れて老ホームの自へと戻った。
部の窓をけると、午の柔らかながレースのカーテンを揺らした。 湯呑みに温かいほうじ茶を注ぎ、母ののテーブルに置く。
「お母さん、疲れたでしょう」
「ううん。胸のつかえが、ようやく取れた気がするわ」
母は湯呑みを両で包み込み、ふうと息を吹きかけた。 そして、穏やかな差しで私を見げた。
「ねえ、由美。お盆のののこと、覚えてるかい?」
「……分だけでいいから、顔を見せてほしいって言ったのこと?」
「そうよ」
母はさく頷いた。
「本当はね、あの話であなたに言いたかったの。健さんが施設で危ない売り方をしていること、入居者のたちがって署名を集め始めていること」
私の喉の奥が、きゅっと痛んだ。
「でもね、話のあなたの声を聞いたら、すごく疲れていたでしょう。健さんの顔を伺って、息を潜めて暮らしているのが痛いほど伝わってきたのよ。だから……話でいきなり話したら、あなたがパニックになって、また健さんの代わりにをげて回るんじゃないかって。そうったら、言えなかったの」
「お母さん……」
「たった分でいいから、顔を見て、あなたの目を見て話したかった。でも、健さんはあなたをかせなかった」
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母は私のを、皺だらけの温かいでそっと握りしめた。
「あの、あなたがでをりて、この部に来てくれた、私は本当に嬉しかったのよ。『ああ、この子はもう丈夫だ。自分ので、ここに来てくれたんだ』って」
「もっとく気づいていればよかった」
私の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「お母さんにこんな苦労をさせるに、もっとく、あのの本性に気づいていれば……」
「いいのよ、由美」
母は優しく首を横に振った。
「今気づいたんだから、遅くなんてないわ。をやり直すのに、遅すぎるなんてことは絶対にないのよ」
母の温もりが、え切っていた私のにじんわりと染み渡っていった。 もう、迷いはなかった。
そのの夕方、私は弁護士同席のもと、夫と区役所のくの喫茶で会った。
テーブルのに置かれた枚の類。 緑の枠線で囲まれた、婚届だった。
夫の目は落ち窪み、髭は剃り残され、かつての傲な気配は跡形もなく消えっていた。
「……由美」
夫の掠れた声が、テーブル越しに届く。
「悪かった。俺が全部違ってた。会社も、退職勧奨を受け入れたよ……営業部の席も、退職も、全部なくなった。これからはを入れ替えて、警備のバイトでも何でもして、真面目に働くから……」
男のが、縋るように私の元へ伸びてきた。
「もう度だけ、チャンスをくれないか。
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俺には、おしかいないんだ……」
私は伸びてきたそのを、静かに、しかし迷いなく避けた。
「健さん」
私の声は、驚くほど澄んでいた。
「あなたは私が必なんじゃないわ。自分の尻拭いをして、都よくの回りの世話をしてくれる『誰か』が必なだけよ」
夫のきが止まった。
「の結婚活で、あなたが私を対等なとして見たことが度でもあった? 私の母親の命を、分の価値すらないと切り捨てたあなたが、今さら何を言っているの?」
夫はを半きにしたまま、言葉を失った。
「サインしてください。これ以、見苦しい姿を晒さないで」
弁護士が無言で万を差しす。 夫は震えるでそれを受け取り、絶望に満ちた目で、自分の名をき殴った。
のを滑るペンのカリカリという音が、私をの呪縛から解き放つ図のように聞こえた。
半の、。
京の桜は満をし過ぎ、が吹くたびに淡いピンクのびらがい散っていた。
私は今、スーパーのパートのシフトをフルタイムに増やし、社会保険に加入して働いている。 古いけれど当たりのいいアパートで、で暮らす活。 朝起きて、自分のためだけに朝を作り、誰の嫌も伺わずにドアをける。 その当たりの静けさが、どれほど贅沢なものか、毎噛み締めていた。
弁護士を通じて完した婚と財産分与。 マンションの売却益の分割、そして分割の続きもすべて終わった。