"「母の十分は無駄」と笑った夫の失脚" 第9話
血った目が、ギリギリと音をてて見かれる。 健は私の胸ぐらを掴もうと、脂汗で濡れたを伸ばしてきた。 私は子を引いてちがり、そのをたく払い落とした。
空を切った自分のに驚いたように、健が目を見張る。
「……触らないで」
私の声は、自分でも驚くほど徹だった。 氷のを流れるのように、静かで、切のが削ぎ落とされていた。
「これ以、あなたに見せるけなんて滴もないわ」
その瞬、健のので、何かが完全に弾けんだのが分かった。 プライドをへし折られ、逃げを塞がれ、これまで絶対に逆らわなかった「都のいい妻」に完全に拒絶された男の、最の悪あがき。
健は元を歪め、唾をばしながら、玄関を指差した。
「ていけ」
をうような、濁った声だった。
「……何?」
「ていけって言ってんだよ! このは誰が買ったとってんだ! 俺の料で、俺がの宅ローンを組んで払ってんだよ! おみたいな役たずのパート女が、円でもをしたことがあるのか!?」
健は狂ったように笑いし、テーブルのの類をへ払い落とした。
「実のババアに方して俺を破滅させたいなら、とっととあのボロ老ホームへ転がり込め! このの敷居は、度と跨がせねえ! に荷物をまとめてていけ! 文無しで放りされて、野垂れにしろ!!」
広告
夜の静寂を引き裂くように、男の罵声が響き渡る。
に散らばった類の隙で、かつてで選んだリビングの照が、く虚しく輝いていた。
私は、息をく吸い込んだ。 臓は鐘を打っていたが、恐怖ではなかった。
これが、この男がかけて私に用した「結末」なのだ。 ならば、受けてつしかない。
私はの破片を踏み越え、自分の寝へと歩きした。 背で続く鳴り声を、完全にのシャッターをろして締めしながら。
朝のが、リビングの窓から々と差し込んでいた。
には、昨夜夫が叩きつけたウイスキーの瓶と、割れたグラスの破片。 ソファのでは、スーツを着崩したままの健が、豚のようにい鼾をかいて眠りこけている。
私はもしていなかった。
キッチンの隅で、型のスーツケースをき、淡々と荷物を詰めていた。 物のコート、数着の着替え、パートの制。 そして、、私がしずつ買い揃えてきた調理器具のから、母が結婚祝いに持たせてくれたの卵焼き器だけを聞に包んだ。
「……おい」
背で、掠れた声がした。 振り返ると、健がを押さえながら起きがっていた。 ひどい酔いの顔。充血した目が、私の元のスーツケースを捉えた。
「何やってんだ、お」
「荷造りよ」
私はを止めずに答えた。
広告
「昨夜、あなたが言ったじゃない。『にていけ』って」
健の顔に、瞬だけ狼狽のがった。 だが、次の瞬には、嘲るような笑いが唇の端に張り付いた。
「ハッ……本気にしてんのかよ。脅しのひとつも通じないのか? 図々しい女だな」
健はふらつきながらちがり、を求めてキッチンへとづいてきた。 その体からちる、酒と煙の悪臭に、の奥がつんと痛む。
「いいか、由美。静になれよ。おがをて、どこへくんだ? あのボロ老ホームの母親の部に転がり込むのか? 施設側が許すわけないだろ」
「どこへくかは、私が決めるわ」
「パートの千円ちょっとの遣い稼ぎで、アパートの初期費用が払えるとってんのか? 保証だって必だぞ。誰がい無能な主婦の保証になんてなるんだよ」
健は蛇をひねり、コップに注いだを気にみ干した。 そして、見すような線を私に投げつける。
「をやせ。俺に座して『昨は気なことを言って申し訳ありませんでした』って謝れば、このに置いてやって、飯くらいわせてやる。母親の告発状も、おが『母の妄でした』って会社にをげて回収してこい。それが、おがき残る唯のだ」
臓の奥が、すうっとたくなっていくのをじた。
このは、まだ分かっていないのだ。
自分が崖っぷちにたされていることも。 目のにいる妻が、もう度と自分の元にひれ伏すことはないということも。