"産後5日の病室で、娘を奪う義母が夫を殴りつけた" 第16話
弁護士を通じて届いた報告には、隣との付きいも断ち、カーテンを閉め切った部で暮らしていると記されていた。
私は実へは戻らなかった。 齢の母にこれ以の労をかけたくなかったし、何より、誰かに依してきるさを完全に断ち切りたかったからだ。
区役所の戸籍課で、私は、届を提した。 父親の欄に名はあっても、親権者は私。 あの、夜窓で提した受理申のおかげで、夫の悪が娘の戸籍に傷をつけることは切なかった。
私が娘につけた名は、「陽菜(ひな)」。 どんなに暗くたい夜であっても、必ずかい太陽のが差すようにと、妊娠にで願いを込めていた名だった。
あれから、が過ぎた。
都からしれた私鉄沿線。 築を超えるさなアパートの2DKが、私と陽菜のしいだった。
畳の擦り切れた部には、さなジョイントマットが敷かれ、とりどりのおもちゃが並んでいる。 ベランダからは、所の公園の々が見えた。 決して裕福な暮らしではない。 昼は娘を規模保育園に預け、私は宅で医療事務のデータ入力の仕事をこなす。 スーパーの夕方の見切り品を買い、計簿とにらめっこする毎だ。
それでも、誰の顔を窺うこともなく、誰かの借に怯えることもない。
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この部に流れる空気は、どこまでも澄み切っていた。
「陽菜、おいで。ごはんできたよ」
机のに、柔らかく煮込んだカボチャのお粥と、さく刻んだ野菜のプレートを並べる。
「あー、うー!」
ジョイントマットので、陽菜が元気な声をげた。 目、病でさく震えていたあの赤ん坊は、今やふっくらとした頬を桜に染め、力くハイハイで部をき回っている。
ピーンポーン。
控えめな呼び鈴が鳴った。 玄関のドアをけると、郵便配達員がさな角い包を差ししてきた。
「佐藤さん、簡易留です。ご署名をお願いします」
受領印を押し、部に戻って差の欄を見る。 そこには、見覚えのない方の所と、震えるような細い文字で、義母の旧姓がかれていた。
指先が微かに張る。 、弁護士を通じた形式な事務連絡以、接触を完全に遮断していた相だった。
包みをけると、からさな桐の箱がてきた。 蓋をける。
入っていたのは、淡い黄の毛糸で丁寧に編まれた、さな赤ちゃん用の靴だった。 素が編んだ、し揃いな網目。 その底に、つ折りにされた便箋が枚、挟み込まれていた。
インクのにじんだ文字で、い言葉が並んでいた。
『陽菜ちゃん、1歳のお誕おめでとうございます。 わせる顔もありません。
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許してほしいともいません。 ただ、あの子の健やかな成を、い空のから毎祈っています。 どうか、お体を切に』
便箋の端は、乾いた涙の跡で波打っていた。
私はその編みの靴を、のひらのに載せた。 ふわりとした毛糸の柔らかさ。 かつて傲で、欲で、世体だけをしていた女が、孤独の底で編みげたのであろうさな靴。
許す気は、今も毛なかった。 あの、病で娘を奪おうとし、廊で私を罵倒した景は、私の記憶から消えることはない。 この靴を、陽菜に履かせることも決してないだろう。
でも—— 引き裂いて捨てる気にも、ならなかった。
私は便箋を丁寧に折り畳み、靴と緒に桐の箱へ戻した。 そして、部の押し入れの、番奥の袋の隅へと静かにしまい込んだ。
復讐も、憎悪も、もう私のには必ない。 過の沼は、あの暗のに置いていけばいい。
「マ……マー!」
背で、たどたどしい声が響いた。
振り返ると、ジョイントマットの端にっていた陽菜が、両を広げて、満面の笑みを浮かべていた。 さなが、を踏みしめる。 ヨロ、と体が揺れたが、倒れなかった。
歩。 そして、もう歩。
陽菜が、自分ので、私の元へと歩きした。
「陽菜……!」
私は膝をつき、両を広げた。 び込んできたさな体を、ぎゅっと抱きしめる。 胸いっぱいに広がる、陽のを浴びたお様のような匂い。
窓から差し込む朝のが、私たちのさな部を黄に照らしていた。
もう、何も怖くない。 誰の具にもさせない。 この子の歩むは、私たちが、私たちので切り拓いていく。
「お誕おめでとう、陽菜」
私の胸ので、娘が声をげて笑った。 しい朝が、私たちの未来をまっすぐに照らしていた。