みかん小説
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"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第13話

「拓也、お……親に向かって何てを――」

「親父面するなよ!!」

拓也の声が、事務所の壁を震わせた。

「母さんの汗垂らした労働を『タダで当然』だとって踏みにじってきた男に、 ついていく従業員なんているわけないだろ! 森田さんだけじゃない、厨のパートさんたちも、今末で全員辞めるって言ってきたぞ! これが父さんの作ったの結果かよ! ……全部、あんたの勝なプライドがぶち壊したんだ!!」

拓也は自分のデスクから私物を鷲掴みにし、カバンに突っ込んだ。

「俺も、もう辞めます。 から、会社には来ません」

「拓也! 待て! おい、俺をにする気か! 拓也ぁっ!」

正彦の叫び声を背に、事務所のドアが叩きつけるように閉まった。

激しい静寂が、部を支配する。

正彦はふらつきながら、誰もいなくなった自宅へとうように戻った。

気のついていない、真っ暗なキッチン。 蔵庫のモーター音だけが、障りにく唸っている。

喉の渇きを覚え、蔵庫のドアをけた正彦のが、ピタリと止まった。

には、綺麗に片付けられた棚。 その央に、枚の黄い付箋が貼られていた。 美代子の、几帳面な文字だった。

【濃醤油と本みりんのストックは、収納の奥です。 汁用の昆布は湿気やすいので、密閉容器からさないでください。 賞期限のい卵から、先に使ってくださいね】

をていく最の瞬まで、このの卓を案じて残された、妻のメモ。

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正彦はその切れを見つめたまま、指先を伸ばそうとした。

その瞬――。

ガシャンッ!!

玄関のドアが乱暴に閉まる轟音が、夜の空気を震わせた。 残された息子の、最の決別の音だった。

正彦の膝が折れ、たいキッチンのに、崩れるようにをついた。

暗の、誰も答えてくれない台所で、 歳の社は、ただ、震えながらち尽くしていた。

黒ロジスティクスのコンペは、奇跡に「完全な破談」にはならなかった。

仕入れ責任者の藤原さんが求めていたのは、社の首ではなく、組織としての「透性とガバナンス」だったからだ。

織さんが提したコンプライアンス正報告と、料理の森田さんが自らをげて提した「発体制の刷計画」。 それらを受け取った藤原さんは、条件付きで林を再審査のテーブルに残した。

条件はつ。 代表取締役である正彦から商品発および品質管理の権限を完全に剥奪し、森田さんを発統括部に据えること。 そして、部の考案者――すなわち私と、法に適正な業務委託契約を締結し、対価を支払った証を提すること。

正彦に残されたは、つにつだった。 妻にをげて権限を放すか、千万円の案件を失って会社を倒産危に追い込むか。

数、私の元に通の簡易留が届いた。

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差は、林株式会社。 には、弁護士の監修を受けた、正式な業務委託契約が通同封されていた。

【業務内容:物流施設向けメニューの量産化コンサルティングおよび調データ監修】 【委託料:万円(試作検証当および調配データの提供対価)】 【支払い期:契約締結、翌末までに指定座へ振込】

には、林の丸い会社実印と、乱暴に押された代表取締役・林正彦の角印。

私はペンを執り、自署欄に「林美代子」と署名した。 印鑑登録してある実印を、朱肉につけて真っ直ぐに押す。

夫婦のでも、族の助けいでもない。 目にして初めて結ばれた、の技術者としての、対等なビジネス契約だった。

私は央厨へはを踏み入れなかった。 指定された貸し会議で、森田さんとだけ机を挟んで向きった。

私が渡したのは、冊のノートから抜粋した、業務用スチームコンベクションオーブンの温度帯別・保率データ。 ブラジル産鶏肉の解凍ドリップを抑えるための、塩麹と酒の浸漬比率。 そして、配送からが経過しても、タレが分せず塩気が尖らないための、葛を使った粘度調の数値だった。

森田さんは、差しされた資料を震えるで受け取り、何度も何度もをげた。

「奥さん……本当に、ありがとうございます。

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