"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第10話
正彦の指が、画面のでピタリと凍りついた。
本文の冒が、青いのにくっきりと浮かびがっていた。
『代表取締役 林正彦様。 現の黒ロジスティクス様向け試作メニューに関し、 部考案者(林美代子氏)の財産を無契約・無報酬で流用する為は、 元請企業の定める「サプライヤー規範」および請法・優越位の濫用に関するコンプライアンス基準に抵触する恐れがあります。 万、本件の権利処理が未のまま本契約が締結された、 黒ロジスティクス様への内部通報、ならびに公正取引委員会への報告義務がじる能性があります……』
「な……んだ、これは……?」
正彦の唇から、掠れた空気の音が漏れた。 顔が、見る見るうちに気へと変わっていく。
「織……? あいつ、何を血迷って……!」
スマートフォンを持つが、刻みに震え始めた。 画面の最部には、織さんが添付したファイルの名が表示されていた。
【林美代子氏が提示した「業務委託契約」の妥当性評価および速やかな締結の言.pdf】
正彦は目を剥き、恐怖に歪んだ顔で、ゆっくりと私を見げた。
私はテーブルのに置いためたお茶を啜り、静かに微笑んだ。
「正彦さん。 プロの厨でも作れなかったのね、私の『貧乏くさい飯』」
週の猶予は、あっというに過ぎった。
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再試会の。 私は自宅のダイニングテーブルで、めた麦茶をにで座っていた。
現へ同することは許されなかった。 正彦が「部者の主婦を連れてけるか」と鳴り散らし、織さんが言した業務委託契約にも、結局最までハンコを押さなかったからだ。
夫は森田さんたち厨スタッフを連鳴りつけ、私が台所に残していた調料の空き瓶や、ゴミ箱に捨ててあった汁殻の削り節まで漁らせて、無理やり「似たようなもの」をでっちげさせた。
勝てるわけがない。 料理のは、ただ素材を真似れば再現できるようなっぽい品ではないのだ。
午。 黒ロジスティクスの本社会議。
そのの張り詰めた空気は、から織さんが吹き込んでくれたスマートフォンのボイスメモから、々しいほどに伝わってきた。
テーブルの央に並べられた、つの弁当箱。 片方は、林が提した再試作版の「塩麹鶏」。 もう片方は、ライバルであるチェーンが持ち込んだサンプルだった。
黒ロジスティクスの仕入れ責任者、藤原佳奈さんは、腕を組んだままじっと林の弁当を見つめていた。
磁のような肌に、切のを交えない徹な線。 商社の購買部を渡り歩いてきたプロのバイヤーだ。
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林正彦のような方の零細経営者が振りかざす「男のハッタリ」など、最初からミリも通用する相ではなかった。
「……回のサンプルよりは、だいぶ改善されましたね」
藤原さんが、箸を置いてさくをいた。
「鶏肉のパサつきは抑えられている。業務用のスチームオーブンでこれだけの柔らかさを維持できれば、交代勤務のドライバーたちも満するでしょう」
その言葉がた瞬、正彦が子からを乗りす気配が、録音データからもはっきりと分かった。
「ありがとうございます! 弊社の厨が丸となって、私が培ってきた独自のノウハウを注ぎ込みました! 初度千万円の枠、ぜひ弊社にお任せいただければ――」
「林社。話を遮らないでいただけますか」
藤原さんのややかな言が、正彦の浮ついた声を瞬で切り裂いた。
会議に、をめくる乾いた音が響く。
「の方向性は悪くない。ですが……提されたこちらの原価計算と、品質管理マニュアル。これ、どなたが作成されたものですか?」
正彦が咳払いをし、胸を張った。
「私が現を統括し、指示をしてまとめさせました。弊社の発チームの総力です」
「おかしいですね」
藤原さんの声のトーンが、さらに段くなった。
「この原価表、調料の比率と材の歩留まり計算だけが異常に緻密で、現のオペレーションマニュアルとまるで噛みっていません。
まるで……どこか別の所で完成された個レシピの数字を、現の調理師が無理やり業務用ラインに当てはめようとして、数字をこねくり回したような歪さをじるんです」