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"朝四時の弁当を捨てた夫が、五分後にすがりつく理由" 第6話

「族なんだから、支えうのが普通だろ! なんでそんな、赤のみたいな契約をすんだよ! 父さんが汗垂らして稼いだで、母さんだって活できてるんじゃないか!」

「拓也」

私は息子の顔を、じっと見つめた。 歳。 会社の営業担当として、でをげているはずの男。 それなのに、目のの母親が差ししてきた労働の価値を、この子はこれっぽっちも理解していない。

「私はね、活費を『恵んでもらっていた』んじゃないの。 事を完璧にこなし、会社のメニュー発を裏で引き受け、買いしのガソリン代まで自分のパート代からて替えてきた。 私はこのの居候じゃないわ。 正彦さんの会社の、無の発部員だったのよ」

「勝に言わせておけば……!」

正彦がちがり、子を蹴るようにして引いた。

「サインなんかするか! 誰がこんなふざけた切れにハンコを押すか! おい拓也、くぞ! 央厨へ入れ! 森田に、美代子が過にいたメモを全部引っ張りさせろ。 料理のプロが何もいるんだ。 素の主婦が作った飯の真似事くらい、ありゃ完璧に再現できるわ!」

「そうですよ! 母さんのレシピなんかなくたって、会社の厨ならもっと美いのが作れますよ!」

拓也が父親に調子をわせ、カバンを掴んで玄関へる。

バタン、と乱暴にドアが閉まり、男の騒々しい音が消えた。

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残されたリビングで、私はく息を吐きした。 膝がかすかに震えている。 けれど、のには議なほどの静寂が広がっていた。

引きしの奥にある冊のノートは、すでに別の所に隠してある。 厨に残っているのは、断片なりきのメモだけ。

プロの料理だからこそ、躓くはずだった。 量調理の壁と、庭料理の恵の狭にある、目に見えない「落とし穴」に。

昼過ぎ。私のスマートフォンが震えた。

画面に表示された名を見て、私は息を呑んだ。 【央厨 森田俊夫】

正彦の会社で、厨を預かってきたベテランの料理だった。 元々はホテルの部にいた腕利きの職で、正彦の傲な経営方針に何度も振り回されながらも、現の従業員を守るために踏みとどまってきただ。

通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、激しい換気扇の音と鍋の擦れる音が聞こえてきた。

『……あ、奥さんですか。忙しいにすみません、森田です』

その声は、ひどく掠れていた。

「森田さん。お疲れ様です。どうされたんですか?」

『……単刀直入にお聞きします。 社から、奥さんが以作られた塩麹鶏のメモを渡されたんですが……これ、調料の比率がどうしてもわないんです』

受話器の向こうで、森田さんがいため息をつくのが分かった。

『メモには「醤油さじ、みりんさじ、塩麹グラム」

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とかれていました。 それを単純に厨の仕込み単位――百の分量に掛け算して、スチコン(スチームコンベクションオーブン)で焼いたんですが……完全に失敗しました。 表面だけが真っ黒に焦げて、はのまま。 慌てて温度をげて蒸気量を増やしたら、今度は鶏肉から量の分が抜けて、スカスカのゴムみたいになっちまったんです』

私は目を閉じた。 のに、業務用の巨な厨器の構造が浮かぶ。

「……森田さん。ご庭の魚焼きグリルやフライパンと、業務用のスチコンでは、伝導の仕方がまったく違います」

『ええ、それは分かっています。だから焼きを調したんです。 でも、肉が縮んでしまって……歩留まりが割を切りました。 これじゃ、社の言う「百円」の原価枠に到底収まりません。 ブラジル産のい凍モモ肉を使っているから、解凍の段階でドリップがすぎるんです。 奥さん、あのサンプル……肉の処理に、何か別のを加えていませんでしたか?』

職としての、真摯な問いかけだった。 森田さんは、私がただの主婦ではなく、現の数字と科学な理屈を理解して試作していたことを、々気づいていたのだ。

教えるのは簡単だった。 解凍の塩分濃度のコントロール。 ブラジル産特の臭みを消し、筋繊維を壊さずに分を抱き込ませるための、曹と酒の絶妙な配比。

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