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"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第15話

は、そこで終わっていた。 付は、の夫が識を失う週。

しん、と静まり返った部ので、の擦れるかすかな音だけが響いた。

「……うそ」

娘の唇が、刻みに痙攣していた。

「嘘よ……そんなの、偽造よ! お父さんがそんなことくわけない!!」 娘はを蹴り、を抱えて切り声をげた。 「お父さんは私を番してた! 私のためにこのを残してくれたの! あんたがの男とよろしくやるために遺したんじゃない!!」

「真央」 私はを胸元に抱き、娘の目を真っ直ぐに見据えた。

「お父さんはね、あなたのこともしていたわ。でも、それと同じくらい、私というののを案じてくれていたのよ」

娘の呼吸が止まる。

「あなたはこの、『お母さんはお父さんを裏切った』と言い続けてきたわね。健司さんを透のように扱い、庭ので私に罪悪を植え付け、自分のい通りに支配しようとしてきた」 私の声は、氷のようにたく、澄んでいた。 「でも、違ったのよ。裏切っていたのはお父さんじゃない。お父さんのを免罪符にして、母親のを搾取しようとしていたのは――真央、あなた自よ」

「ち、違う……私は……!」

「お父さんは、あなたに『自分のでちなさい』と遺したの。親の遺産にすがりつき、の善を踏み台にして、嘘で塗り固めた結婚をするような娘になることを、お父さんがぶとう?」

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娘の喉から、ひっ、とい息が漏れた。 反論の言葉は、もうどこからも湧いてこなかった。

、娘が頑なに守り続けてきた「被害者」の仮面。 んだ父親の無をらす正義の方という、都のいい物語。 そのすべてが、父親本のによって、無残な自己正当化のゴミ屑へと変わり果てたのだ。

娘はよろよろとずさりし、斎の壁に背をく打ち付けた。 そして、そのまま力なく、へと崩れ落ちた。

膝を抱え、声を押し殺して泣き始めた娘の背を、私はただ静かに見ろしていた。 を伸ばして抱きしめることは、もう度としなかった。

季節はにみ、の初旬。

杉並の古い軒のには、産仲介会社の板が掲げられ、すでに「成約御礼」の赤い札が貼られていた。 駅にい角ということもあり、売りしからわずかヶで、隣にむ子育て世代の夫婦に購入が決まった。

契約の当、司法士の先の事務所の応接には、苦しい沈黙が漂っていた。

テーブルの片側には私と健司さん。 向かい側には、黒いなスーツを着た真央が座っていた。 その顔には以の傲な面はなく、頬はこけ、目元には濃いが落ちていた。

「では、売却代の精算内訳をご確認ください」

先が類をめくり、淡々と説をめる。

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と建物の売却代から、仲介数料と登記費用を差し引いた額。 そこから、民法の規定に基づき、健司さんがにわたり負担してきた修繕費と固定資産税の折半額――百万円が、健司さんの座へと正確に返還された。

そして、元に残った純利益。 それは、私と真央の座へ、円単位まで正確に分のずつ振り込まれた。

「……以で、佐藤孝雄様の遺産分割協議、ならびに換価分割の続きはすべて法に完いたしました」

先の言葉に、娘はピクリと肩を揺らした。

元の通帳に記帳された、まとまった額の数字。 それは代の娘にとって、分にきなだった。 だが、そのと引き換えに、娘は度と戻れないと、父親のいが染み付いた空を、完全に失ったのだ。

「真央ちゃん」 健司さんが、穏やかな声で呼びかけた。

娘が恐る恐る顔をげる。

「輔さんとは、どうなったんだい」

娘は唇をきつく噛み締め、線をテーブルへと落とした。 「……別居、してます」 掠れた声だった。 「式をぶち壊したことと、の嘘をついてたこと、向こうのご両親に全部バレて……。『信用できない』って言われて、入籍は延期になりました。今は、会社のアパートでで暮らしてます」

自業自得という言葉が、あまりにも似う結末だった。 母親を脅迫してに入れようとした虚飾のは、何つ残らなかった。

「そうか」 健司さんはそれ以、娘を責めることも、れむこともしなかった。

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