"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第12話
妻。 その言葉の棘が、チクリと胸を刺す。 以の私なら、「ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」と縮こまり、所の目を気にしてに招き入れ、お茶をして宥めていただろう。
だが、今の私のには、氷のような静寂しかなかった。
「雅代さん」 私の声は、驚くほどく、たく響いた。 「のの玄関先で騒ぐのはおやめなさい。所迷惑です」
「所迷惑!? 迷惑をかけてるのはあんたのほうでしょ! 兄さんの仏壇があるにを連れ込んで、恥ずかしくないの!?」
「仏壇、ですか」 私はややかに角をげた。 「孝雄さんの回忌の法、あなたはおがないからと幹線代を私に無した挙句、来ませんでしたね。回忌のも、お布施の千円すらし渋って、お寺の職に悪態をついて帰られた。仏壇に線本あげたこともないあなたが、どので孝雄さんの名をにするのですか?」
雅代の顔が、カッと赤く染まった。 「な、何を昔の話を蒸し返して……! 私は佐藤の血筋として、真央ちゃんの権利を守るために……!」
「権利を語るなら、ちょうどいいわ」
私はエプロンのポケットから、枚の折りたたまれた茶い封筒を取りした。 昨夜、仏壇の奥にある古い類入れから引っ張りしてきたものだ。
封筒のから取りしたを、雅代の目のに突きつける。
黄ばんだの表面に、太いペンでかれた文字。
広告
には、雅代の旧姓のフルネームと、くっきりとした朱肉の印鑑が押されていた。
『借用 参百萬円也』
雅代の呼吸が、ピタリと止まった。 釣りがっていた眉が、引きつるように痙攣する。
「……な、何よこれ」
「、孝雄さんが入院した直、あなたのご主の事業がちかなくなったに貸し付けたおです」 私は文字文字、噛んで含めるように言い放った。 「孝雄さんが自分の命保険の付を削って、あなたに渡した百万円よ。『妹が困っているから』と、自分の抗がん剤治療のランクをげてまで面したお。……円たりとも、返済されていませんね?」
雅代の顔から、急速に血の気が引いていく。 唇を刻みに震わせ、ずさりをした。
「そ、そんなの……兄妹のの助けいじゃない! 今さら効でしょ!?」
「商法の消滅効は過ぎているかもしれませんね」 私は歩、玄関の敷居を踏み越えた。 「でも、あなたがここで所に恥を晒したいというのなら、私も弁護士をてて、この借用のと、あなたが兄のに際にしてきた義理のすべてを、あなたのご親族やご所に公表しても構いませんよ」
「ひっ……!」
雅代の喉から、みっともない鳴が漏れた。 佐藤の正義の方を気取っていた女のメッキが、切れ枚で無残に剥がれ落ちた瞬だった。
広告
「お、叔母さん……?」 娘が狼狽えて雅代の袖を引く。 だが、雅代はそのを乱暴に振り払った。
「ま、真央ちゃん! あんた、こんな話聞いてないわよ! 私を巻き込まないでちょうだい!」 雅代は吐き捨てるように叫ぶと、派なカーディガンの裾を翻し、蜘蛛の子を散らすように通りへと逃げっていった。
ヒールの音を響かせてざかる叔母の背を、娘は信じられないものを見るような目で見送っていた。
残されたのは、私と娘のだけだった。
のたいが、のを吹き抜けていく。 娘の肩が、屈辱と焦燥で激しくしていた。
「……何よそれ」 娘の声は、掠れて震えていた。 「お父さんの妹まで脅して追い払って……そこまでして、あのおじさんとこのに居座りたいわけ!?」
「真央」 私は娘の目を、逃げのないほど真っ直ぐに見据えた。 「あなたに、な決定を伝えます」
娘が息を呑む。
「私は、このをます」
その瞬、娘の顔に、サッと浅ましい希望のが差した。 (やっぱり私の勝ちだ)と言わんばかりの、歪んだ笑みが元に浮かびかける。
「じゃ、じゃあ……を私に譲ってくれるのね!? 輔さんにも、そう説して……」
「譲りません」 私の徹な言が、娘の期待をっ端微に砕した。
「……え?」
「このは、売却します」
「……は?」 娘のが、完全に止した。
「すでに司法士を通じて、産仲介会社に査定の続きを依頼しました」
私は淡々と、事務な調で告げた。 「このと建物は、で売却し、現化します。