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"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第5話

けたたましく鳴り響くインターホンの連打音。

「けて! お母さん、けなさいよ! にいるんでしょ!!」

宅の静寂を引き裂く、狂乱した女の切り声。 所迷惑など微も気にしていない、暴力な音だった。

私は湯呑みをテーブルに置き、すっと息を吸い込んだ。 隣に座る健司さんが、配そうに私の顔を見る。

「弓子さん、僕がようか」

「いいえ」 私は静かに首を振った。 「健司さん、もうあなたを矢面にたせるような真似は絶対にしないわ。私の子育ての始末は、私がつける」

私はちがり、しっかりと背筋を伸ばして玄関へと向かった。 鍵をし、引き戸をガラリとける。

そこにっていたのは、見るも無惨な姿の娘だった。

着替える余裕もなかったのか、披宴の次会で着るはずだった派なピンクのカラードレスのに、毛玉のついたトレンチコートを羽織っている。 髪は乱れ、マスカラは涙と汗で黒く頬に溶け落ち、その形相は夜叉のように歪んでいた。

そのろには、険しい顔をした郎の輔が、腕を組んでっていた。 輔の目には、真央への軽蔑と、この異常な事態へのりが渦巻いている。

「お母さん!! あんた、正気なの!?」 娘はのまま玄関のたたきに踏み込んできそうな勢いで叫んだ。 「私の結婚式をぶち壊して、満した!? 輔さんのご両親や親戚ので、私がどれだけ恥をかいたか分かってるの!? 『母親にすら見捨てられるような嫁』って、言われ続けるんだよ!?」

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唾をばして喚き散らす娘の顔を、私はめた目で見つめ返した。

「恥をかかせたのは、私ではなくあなた自よ、真央」

「はあ!? あんたがドタキャンしたからでしょ!!」

「私はドタキャンなどしていないわ」 私はを交えず、淡々と事実だけを告げた。 「昨夜の段階で、健司さんと共に『席しない』とあなたに告げたはずよ。あなたが突きつけてきた脅迫を受け入れない以、私が母親としてあのに座る義理はないわ」

「脅迫!?」 娘はキーキーと声を張りげた。 「親なら子どもの活を応援するのが当たりでしょ! お父さんのにむのが私の正当な権利じゃない! あんたはあのおじさんに洗脳されてるんだよ! がおかしくなったんじゃないの!?」

娘はトレンチコートのポケットから、くしゃくしゃになった数枚の類を引っ張りすと、玄関の駄箱のに叩きつけるように叩き落とした。

バサリ、と音をてて散らばった類の表面には、公な式が印刷されていた。

『庭裁判所 遺産分割調申(案)』

「いい加減にして! もう話しいなんてしない!」 娘は勝ち誇ったように、歪んだ笑みを浮かべた。 「輔さんの親戚のツテで、弁護士を紹介してもらったの! 法にこのの遺産分割を申してて、あんたたちをこのから叩きしてやる! 実の娘を裏切った報いを受けなさいよ!」

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輔がろで気まずそうに目を逸らした。 娘は、輔の親の威を借りて、実の母親を法に脅しげ、力づくでを奪い取るつもりなのだ。

どこまでも浅ましく、どこまでも傲な姿だった。 もし昨夜までの私なら、この「調」という公な圧力に怯え、世体を恐れて、泣き寝入りしていたかもしれない。

だが、今の私のには、さざ波つっていなかった。

「遺産分割、ね」

私が静かに呟くと、廊の奥から、カチリと革靴の音が響いた。

暗がりから姿を現したのは、健司さんではなかった。 濃紺の仕ての良いスーツを着た、縁鏡をかけた代半ばの男性だった。 には、類がぎっしりと詰まったな黒革のブリーフケースが握られている。

「……え?」 娘の喚き声が、ピタリと止まった。 輔も審そうにを乗りす。

男性は玄関までみると、完璧な所作で礼し、内ポケットから枚の名刺を取りして輔と真央のに差しした。

「夜分遅くに失礼いたします。弓子様より本件産の権利関係および相続財産の保全に関する全権の委任を預かっております、司法士のと申します」

徹で、寸分の隙もないプロの声音だった。

「司法士……?」 娘が抜けな声を漏らす。

司法士は、娘が駄箱のに叩きつけた調申のくずを瞥すると、く笑ってブリーフケースをけた。

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