"挙式前夜に「家を寄越せ」と迫る娘と、席を捨てた母" 第3話
父親を突然奪われた娘が憫で、自由ないをさせたくなくて、私は昼夜を問わず働いた。 再婚するときも、真央が「お母さんを取られた」とじないよう、健司さんよりも娘の嫌を最優先にしてきた。
健司さんが真央のために用した夕に、真央が骨にをつけずコンビニ弁当をべ始めても、私は健司さんを庇うのではなく「ごめんね、あの子まだ期だから」と健司さんにをげさせた。 健司さんがボーナスからしてくれたの修繕費も、真央のでは「お父さんの遺産からした」と誤魔化し、健司さんのを消そうとした。
私がそうやって、健司さんの尊厳を踏み台にして娘に媚びを売ってきた結果が、あの「部者は入ってこないで」という娘の言葉だったのだ。
「ごめんなさい、健司さん」 ぽろぽろと、膝のに涙が落ちた。 「私、あなたにずっと……酷いことをしてきたわね」
健司さんは何も言わず、ただ信号が青に変わると同に、私のたいを力く握りしめてくれた。 そののひらのさが、申し訳なさとけなさで、胸を痛いほど締め付けた。
自宅に戻ったのは、午を回っていた。 の箪笥のに、着るはずだった黒留袖が、几帳面に掛けられている。
何ヶもから呉に通い、真央のに恥ずかしくないようにと、し奮発して仕て直した切な着物だった。
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糸で施された吉祥文様が、内のかりので虚しく輝いている。
私は着物に歩み寄り、その滑らかな絹の触を指先でなぞった。 悔し涙は、もうなかった。 ただ、のの何かがプツリと音をてて千切れていくのが分かった。
私は留袖を丁寧に畳み、たとうのへと戻した。 、私はあの華やかな所へはかない。 数続いた「無条件に娘のサンドバッグになる母親」という役割を、今夜、完全にりる。
翌、正午。 れの澄み渡る空の、内でも格式いことでられるホテルの宴会には、優雅な弦楽奏の調べが満ちていた。
い井から吊りげられた巨なバカラのシャンデリア。 テーブルに溢れんばかりに飾られた百とカサブランカの甘いりが、会全体に漂っている。
郎・輔さんの実は、元で広く建設業を営む旧だった。 招待客は百を超え、郎側の親族席や主賓席には、元の名士や企業の役たちが顔を揃えている。
だが、披宴の宴を告げるアナウンスが流れる直、会の最列――婦親族席の円卓に、異様な空気が漂い始めていた。
「おい、どういうことなんだ」
郎の父親が、審そうに眉をひそめて呟いた。 その線の先にあるのは、婦の父親席――父の写真が置かれた席の隣。
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最もなはずの「婦母」の席だった。
文字で『婦母 佐藤弓子様』と印刷された席札のには、美しく磨かれたクリスタルグラスとカトラリーが並んでいる。 だが、その子には誰も座っていなかった。
空席。 厳粛であるはずの席に、ぽっかりと空いた気な空。
郎の母・代さんが、扇子を握りしめながら婦側の親族席へとに詰め寄ってきた。 その顔には、隠しきれないと焦燥が張り付いている。
「真央さんのお母様は、まだいらしていないのですか? もう宴の分ですよ。体調でも崩されたの?」
応対した私の実兄――真央の伯父にあたる物は、や汗をハンカチで拭いながら狼狽していた。 「いや、それが……今朝から妹とまったく連絡が取れなくてですね。にもおらんようで……」
「連絡が取れない?」 代さんの声のトーンが段くなった。周囲の招待客が、何事かとチラチラと線を向けてくる。 名にとって、世体は何よりもい。娘の結婚式に実の母親が姿を現さないなど、代未聞の祥事だった。
その頃、会方の郎婦控のい扉の向こうでは、すでに修羅が始まっていた。
「真央、どういうことだよ!」
タキシードにを包んだ郎の輔が、ネクタイを乱暴に緩めながら、純のドレスを着た真央に詰め寄っていた。
その顔はりで真っ赤に染まっている。
「お袋から聞いたぞ! おの母親が席に着いてないって! 体調良ならなんで事に連絡がないんだ? 受付にも祝のつすら届いてないそうじゃないか!」