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"母の友達" 第10話

ありがとう。そこにまとめてあるの」

は私のなど気にも留めない様子で、父のが詰まったいゴミ袋を、際よくつずつ抱えてへ運びしていった。勝のけ閉めのたびに、カラカラと軽いアルミの擦れる音が響く。その作業景には、かつてこので常にわれていたはずの、自然な活のリズムがあった。

午。 私は客の片付けを終え、ボストンバッグのファスナーを閉めた。休暇はまだ残っていたが、これ以このに留まる理由はどこにも見当たらなかった。

居へくと、父の蔵が入っていたダンボール箱は部の隅に寄せられ、テーブルのはすっきりと片付いていた。あの冊の『訂正ノート』の姿はもうなかった。母がどこかへ仕ったのか、それともゴミ袋に放り込んだのかは、聞かなかった。

玄関の式台でスニーカーの紐を結んでいると、母が奥から歩いてきた。 には、ビニール袋に包まれたさなタッパーがあった。

「これ、途でべなさい。佳代さんが持たせてくれた、梨よ。所のにもらったんですって」

「……ありがとう」

タッパーを受け取ると、のひらに果物のずっしりとしたみとたさが伝わってきた。

「じゃあ、帰るよ」

「ええ。体に気をつけてね。仕事、あんまり無理しちゃ駄目よ」

母は見送りのために玄関のへた。

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庭の雑がのに吹かれてカサカサと鳴っている。伸び放題だった庭の枝も、こうして見ると、ただの自然な々の呼吸のようにえた。

扉にをかけたとき、私はふといしてを止めた。

「そういえば、母さん」

「何?」

「来週、役所にくって言ってたけど……そのあと、どうするの。でずっとにいるのか?」

母は柱の脇にち、し目を細めてくの空を見げた。澄み切ったの青空が広がっていた。

「ううん。来の頃、佳代さんとしかけようかって話してるのよ。信州の方へ、葉を見に泊でね。の切符、佳代さんが取ってくれるって」

私は眉をひそめた。条件反射のように、喉元までかかった言葉をみ込めなかった。

「信州? ……母さん、なんて丈夫なのか? 昔から乗り物酔いがひどくて、くへくのを番嫌がってたじゃないか。やにく乗ると、すぐ気分が悪くなって寝込んでたろ」

子どもの頃、族旅の計画がるたびに、父が言っていた言葉だった。「母さんは乗り物にいから、の公園にしておこう」「母さんを疲れさせちゃいけないから、留守番させて男でこう」。だから私は、母とくへかけた記憶がほとんどなかった。

母は私の言葉を聞くと、ち止まったまま、驚いたようにさく目を見張った。

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そして、庭の片隅、枯れかけた陽の茎を見つめながら、静かに、本当に議そうに呟いた。

「それ、お父さんがよく言っていたことね」

が止み、くの幹線をるトラックの微かな音だけが聞こえた。

母は私の方へ向き直った。その顔には、りも皮肉もなく、ただのい込みを剥がされたの、透き通るような平坦な笑みが浮かんでいた。

「私、度もそう言ったことないとうの」

私はち尽くした。

「子どもの頃から、乗り物で酔ったことなんて度もないわ。に乗るのも、らないを歩くのも、本当はずっと好きだったのよ。……ただ、お父さんがね。私をどこにも連れてきたがらなかったの。『おは体がいから』『にると迷惑をかけるから』って、そう言われ続けているうちに、私自も、自分はが嫌いなんだとい込んでいただけ」

母はそれ以、何も言わなかった。

「じゃあね、悠介。気をつけて帰りなさい」

母はさくを振ると、背を向けて玄関の引き戸をけ、のへと入っていった。 ガラガラ、と戸が閉まり、鍵が内側からカチャリと落ちる音が、静まり返った宅に響き渡った。

私はけなかった。

のにある、佳代さんから渡された梨のタッパーのたさだけが、皮膚を通して伝わってくる。 見げた築のは、陽を浴びて静かに佇んでいた。

その窓の向こうで、母がどんな顔をしてお茶を淹れているのか、どんな声で笑うのか、歳になった私には、何ひとつ分からなくなっていた。

駅へ向かう本を、私はで歩き始めた。 背からついてくるものは何もなく、ただ乾いた落ち葉が、アスファルトのを転がっていくだけだった。

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