みかん小説
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"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第1話

張から戻った夜、部の空気はいつもよりわずかにえ切っていた。

練馬の駅から歩いて分ほどの築の賃貸マンション。取りはLDKで、玄関から伸びるい廊のに洗面所と浴、にトイレ、正面の引き戸の向こうに畳ほどのリビングとさな寝がある。で暮らすには分な広さで、もう、何つ自由なく過ごしてきた所だった。

泊の阪張を終えて玄関ドアを解錠したとき、鍵穴に差し込んだキーの触にわずかな引っかかりを覚えたが、寒さで属が縮んでいるのだろうと気に留めなかった。いキャリーケースを玄関にげ、いつものように靴を揃え、気をつける。

リビングの観葉植物は無事だった。張にをやり忘れたことを気にしていたが、青々としたベンジャミンの葉は枚も落ちていない。ほっとして肩の荷をろし、スーツのジャケットを脱いでクローゼットへ掛けた。

異変に気づいたのは、着替えを済ませて洗面台のにったときだった。

面鏡の央、ちょうど自分の顔が映るあたりのガラスに、く拭き取ったような滴の跡が残っていた。まるですぐさっきまで誰かが温かい湯を使い、曇った鏡を首のあたりでさっと拭ったような、半円を描くかすかない濁り。

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首を傾げながら蛇をひねり、を洗う。ハンドソープのポンプを押した瞬、ノズルの向きが普段と反対側、壁のほうを向いていることに気づいた。私は利きだから、使い終わったあとは必ずノズルを斜め度に戻す癖がある。暮らしがくなると、具や用品の定位置は無識の儀式のようになるものだ。

気のせいだろうか。張の朝は幹線のに追われて慌ただしかった。寝ぼけていつもと違う押し方をしたのかもしれない。

そう自分に言い聞かせ、浴の折れ戸をけた。

換気扇は回っていなかった。それなのに、プラスチックのすのこの、排の目皿の周囲が、ほんのりと湿り気を帯びていた。たまりができているわけではない。ただ、完全に乾ききっているはずのグレーの材が、そこだけ濃いに沈んでいる。

しゃがみ込んで、ステンレスのヘアキャッチャーを覗き込んだ。

いつもなら張にパイプクリーナーを流し込み、髪の毛本残さず掃除してからをる。それなのに、さな網目の隅に、本だけい髪が貼りついていた。

指先でつまみげる。 私の髪は背まで届く黒髪のストレートだ。だが、つまんだそれは肩にかかる程度のさで、毛先がわずかに赤みを帯びた栗に染められていた。

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パーマの緩いうねりがある。

臓がさくねた。

指先につまんだ髪の毛を、洗面台のい陶器のに落とす。蛍灯のいので、その栗の縮れは紛れもなくのものだった。

まさか、とった。 空き巣だろうか。だが、リビングの引きしも、クローゼットの貴品も荒らされた形跡はない。テレビもノートパソコンも置き計も、すべてかけるの所にある。玄関の鍵も確実に閉まっていた。

それなら、なぜ。 なぜ誰かが私の部に入り、何も盗まず、呂を使ってていくのか。

その夜は、どうしても浴槽に湯を張る気になれなかった。いシャワーをで浴び、にリビングへ戻ってドアのサムターンをに確認した。ドアチェーンを掛け、郵便受けの内側のベロにを挟んで、から針などでけられないよう細をした。

ベッドに入ったのは夜零を回った頃だったが、が異様なほど冴えわたっていた。蔵庫のコンプレッサーがく唸る音、の環通りをくトラックがりる音、階のが歩くかすかな軋み。そのつひとつに体が張り、枕を抱えたまま浅い眠りと覚のを往復した。

翌朝、私は勤に産管理会社へ話を入れた。

担当の男性は事務な調で、「の入居者の鍵はシリンダー交換にすべて破棄しています」

「退の点検記録にも異常はありません」と答えるだけだった。

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