"「ママって呼んじゃだめ」そう泣いた五歳の娘" 第14話
子どもたちが座になって座り、先の遊びにわせて楽しそうにを叩いている。その輪の角に、真剣な表で先を見つめるの姿があった。
「あ、お母様、いらっしゃい」
田辺先が私に気づき、優しく微笑みかけてくれた。
先の声に反応して、子どもたちが斉に入りを振り返る。
もまた、ぱっと顔をげた。
私と、目がった。
その瞬、はちがり、私の方へ向かって駆けそうとした。
だが――教の央、ピアノの横あたりで、はぴたりとさなを止めた。
まるで、何か見えない壁にぶつかったかのように。
周囲の保護者やの園児たちの線を気にするように、さな瞳がわずかに揺れる。
声をしていいのか。
今、目のにいる母親の名を呼んでも、誰も泣いたりったりしないのか。
歳の娘ののに残ったあのの呪縛が、瞬だけ、そのさな体を竦ませていた。
にすれば、ほんの秒らずの躊躇だった。
私は駆け寄ることも、無理に名を呼ぶこともせず、そのに膝をついて両を広げた。
ただ穏やかに、いつでもそのさな体を受け止める準備をして、笑いかけた。
丈夫よ、と。
は私の笑顔をじっと見つめ、さく息を吸い込んだ。
そして、迷いを振り切るようにさなでをく蹴り、まっすぐに私に向かってりした。
広告
「ママ――っ!」
教の壁に反響するほど、力く、透き通った声だった。
は私の胸のにび込んできた。柔らかなさな体が、全力で私の腕のに収まる。
シャンプーの甘い匂いと、ってきた子どもの温かい気が、私の胸いっぱいに広がった。
「ママ、来てくれた!」
「うん、来たよ。お待たせ、」
私はを抱きげ、そのさな背を両で力いっぱいに抱きしめた。
周囲の保護者たちは、ただ微笑ましそうに私たちを瞥しただけで、すぐに自分の子どものもとへ線を戻していった。
誰にとっても、それは曜の参観における、ごくありふれた親子の景に過ぎなかった。
母親の名を呼び、胸にび込む。世界のどこにでもある、当たりの景。
けれど、私の腕ので嬉しそうに笑っているこの子は、その当たりを取り戻すために、歳というさなで必に戦ってきたのだ。
もう、誰の顔を窺う必もない。
誰かの涙を配して、さな胸を痛めることもない。
の都のいい嘘に怯えることなく、この子は今、自分の母親を自分の言葉で呼ぶ自由を取り戻したのだ。
「ママ、あっちで緒にカスタネット叩こう!」
は私のをぐいぐいと引きながら、誇らしげに教の奥へと歩きした。
繋いださなから、力い体温がじんわりと私の掌に伝わってくる。
窓のでは、初のまばゆい青空が、どこまでもく広がっていた。