"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第17話
その仕に、かつての醜悪な執着は微もじられなかった。
「そう。よかったわね」
い沈黙が流れた。 かつてなら、気まずさに耐えかねてどちらかが余計なをぶつけっていたはずの。 けれど今は、その沈黙すら、どこかよく澄んでいた。
「拓から、連絡あった?」 私が尋ねると、妹はしだけ苦笑いを浮かべた。
「先週、写真が送られてきたわ。部活の会で、にったんだって。ジンギスカンべて、同じ寮の友達と肩組んで笑ってた」
「そう。元気そうね」
「うん。……休みも、寮に残ってロボットの改良をするから、帰省はしないって言われちゃった」
妹の声は、しだけ寂しそうだった。 私は妹の横顔をじっと見つめた。
「……寂しくないの?」
私の問いに、妹は自販の取りしからペットボトルを取りし、両で包み込んだ。 そして、ガラス張りのロビーの向こう、黄にづいた杏並を見つめた。
「寂しいよ」 妹は、さく息を吐いた。
「毎、あの子の部を見るたびに、胸が痛くなる。……本当に、このまま帰ってこないんじゃないかって、怖くなるもあるわ」
妹のが、ペットボトルの温もりを確かめるようにいた。
「でもね、お姉ちゃん」 妹は振り返り、私を見て微笑んだ。 その笑顔は、私たちが子供の頃、縁側でスイカをべていたと同じ、純粋な妹の顔だった。
「私の孤独を埋めるために、あの子のを縛るわけにはいかないから」
が吹き抜け、窓のの杏の葉が斉にいがった。
「私は、私のをきるわ。あの子がいつか、胸を張って帰ってこられるように」
その言葉を聞いた瞬、胸の奥底にあった最のさな澱みが、さらさらと音をてて溶けていくのをじた。
「そう」 私は言った。 「じゃあね、真理」
「うん。……ありがとう、お姉ちゃん」
妹は々とお辞儀をした。 私はそれに軽くを挙げて応え、背を向けた。
振り返ることはしなかった。 互いに別の方向へ歩きす音が、広いロビーのタイルに静かに響いていた。
病院の自ドアを抜けると、たく澄んだの空気が肺を満たした。 首に巻いた父の腕計が、午の柔らかなを浴びて、きらりとくっていた。